忍び寄る需要下振れのリスク

 震災から1ヵ月が経って、先行きの不安材料がはっきりと見えてきた。震災や津波で操業停止した工場・店舗が復旧しても、GDPの水準が元に復元しないリスクである。

 詳しく述べると、震災が経済成長に与える影響は、需要と供給のうち、もっぱら供給サイドへのショックと見られやすい。サプライチェーンの途中段階に、被災した工場があると、加工度の高い自動車・電機メーカーの生産がストップする。この状態は、部品の生産が再開されると元通りになると考えがちである。

 しかし、そこには「伏兵」が潜んでいる。工場の生産がストップした状態が長期化すると、企業収益は悪化する。企業の稼働率が落ちて、固定費負担が高まるからだ。

 経常利益が悪化すると、その次に雇用削減・設備投資抑制へと波及して、日本経済全体の需要水準が低下する(図表1参照)。こうした“二次被害”が発生するとき、供給サイドの復旧ができても、需要減退によってデフレ作用が働く。実質GDPが元の水準に戻るのに、長い時間を要することにならざるを得ない。

「よい節電」と「まずい節電」<br />――熊野英生・第一生命経済研究所 経済調査部 主席エコノミスト

 今のところ、四半期ごとの景気シナリオは、2011年1-3月、4-6月と連続してマイナス成長になった後、7-9月からどうにか前期比プラスに転じるという見通しである。東日本大震災が起こる手前の実質GDPの水準に復帰するのは、2011年末になってからである。

 もっとも、このシナリオでも、需要下振れを過小評価している可能性がある。過去、需要が一気に落ち込んだ事例を振り返ると、多くの場合、リバウンドの後、実質GDPの水準に復するのに時間を要した。