「経済×地理」で、ニュースの“本質”が見えてくる!仕事に効く「教養としての地理」

地理とは、農業や工業、貿易、交通、人口、宗教、言語にいたるまで、現代世界の「ありとあらゆる分野」を学ぶ学問です。

地理なくして、経済を語ることはできません。

最新刊『経済は地理から学べ!』の著者、宮路秀作氏に語ってもらいます。

「水道水が飲める」日本は、<br />こんな“すごい”国だった!

地球上の「飲める水」はごくわずか

 集落が成立する最大の条件として、まず「水」を確保できるかどうかがあります。地球上には約14億km3もの水が存在し、そのうち97.5%は海水です。残りは陸水が2.5%と、わずかな水蒸気です。

 その2.5%の陸水を分類すると、氷雪・氷河が68.7%、地下水が30.1%、地表水が2.2%です。氷雪・氷河の大部分は南極とグリーンランドですから、生活水には利用できません。ちなみに、グリーンランドはデンマーク領です。

 地下水は自由地下水・被圧地下水・宙水と分類されます。これらは生活用水として利用が可能ですが、掘る必要がありますので、獲得は容易ではありません。

 残る2.2%の地表水は、河川水・湖沼水・土壌水に分類されますが、生活用水として利用するのは河川水が中心です。

「1滴の水」を全生物で分かち合っている

 河川水は陸水のうち0.006%です。計算しましょう。14億km3 × 2.5% × 0.006%=2100km3です。あまりに数値が大きすぎるので、半径64cmの地球儀で考えてみましょう。

 実際の地球の赤道半径は6378kmですので、14億km3の水は半径64cmの地球儀上では、1400mlとなります(地球の体積は半径rの場合、4/3πr3 。よって計算式は、4/3π(6400)3 : 14億m3 = 4/3π(0.00064)3 : X)。

 同じように計算すると、2100km3は0.0021ml。この数値は1滴にもなりません。しかし、この1滴の水を、人間だけでなく陸上生物のすべてが分かち合って生きているのです。現在世界では約7億の人たちが、水不足の生活を強いられています。水不足は、食料生産のハードルを上げます。水不足は食料不足に直結するのです。

 20世紀は自動車や航空機が登場したことにより、石油を巡る争いが絶えませんでした。まさしく20世紀は「石油の世紀」でした。しかし21世紀は「水の世紀」です。世界の大河川では、上流での水需要が多くなり、下流で水が枯渇し始めるなど、水の利用を巡って争いが起きています。

 途上国の工業化や生活水準の向上は、水需要を押し上げています。今後、さらなる水不足が生じる地域が増加するかもしれません。乾燥地域においては、海水の淡水化水(脱塩処理を施した海水)の利用が増加しています。しかし、水が豊富にあるからといって、それが安全に利用できるかどうかはまた別の問題です。

 諸説ありますが、「国土全体において水道水を安全に飲める国」は世界に15ヵ国しかありません。フィンランド、スウェーデン、アイスランド、アイルランド、ドイツ、オーストリア、スイス、クロアチア、スロベニア、アラブ首長国連邦、南アフリカ共和国、モザンビーク、オーストラリア、ニュージーランド、そして日本です。

 日本は、ユーラシア大陸の東に位置しているため偏西風の影響が弱く、モンスーンの影響が強い国です。そのため年降水量は世界平均の2倍以上です。また島国であるため、隣国と水資源を巡る争いは基本的に存在しません。

 日本は水資源が豊富な国なのです。日本人は「水と安全はタダ」と当たり前に思っていますが、世界の多くの国ではそうではありません。日本列島が自然から与えられた「土台」なのであり、これは感謝すべきことなのです。好みの問題ですが、ガソリンよりも高いペットボトルの水なんて、本来は買わなくてもいいのです。

石油国、サウジアラビアの悩み

 中東にサウジアラビアという国があります。年降水量は59mmしかなく、気候区分は砂漠気候です。そのため、砂漠のはるか下に存在する帯水層(硬い岩盤層である不透水層に挟まれて水が飽和している地層)まで掘り抜いて水を利用しています。そうやって生産した穀物は、自給できるまでになりました。

 しかし、自給を達成してから約20年、この帯水層は枯渇しつつあります。これを背景に、サウジアラビアの穀物生産量は年々減少の一途を辿っています。

 サウジアラビアでは淡水化水の利用が拡大しています。そして穀物の自給がままならなくなった今、穀物の輸入量を増やしています。

 穀物を海外依存しているサウジアラビアは、石油価格を上げて「目先の利益」を求めると、穀物の禁輸措置というカウンターパンチをもらう可能性があるのです。