「ディフェンシブ」の変質

 中級レベルの株式投資用語に「ディフェンシブ・ストック」という言葉がある。株価の動きとその背景となる業績が比較的安定していて、値動きがワイルドな他の銘柄よりも安定感のある銘柄のことで、内外両方で通用する。

 米国や日本では、過去、食品や薬品のような需要が安定した業種、通信や鉄道のような公共性が高く価格競争に晒されにくい業種に属する時価総額の大きな銘柄がディフェンシブ・ストックとされてきた。

 我が国の電力株は、旧来からディフェンシブ・ストックとしてイメージされることが多かった。地域独占の業態で競争が乏しく、需要が安定しており、従って業績も安定しているが、会社が急成長するような成長性には乏しく、その代わりに配当利回りが高いことが特色だった。

 業績の主な変動要因は、火力発電の燃料になる原油や天然ガスなどの価格変化、それに為替レートといったところだったが、これらが大きく変化したときには、監督官庁が電気料金の改定を認めてくれるので、一時的に収益が悪化しても、いずれ回復すると期待されていた。

 このビジネス構造は、現在も変わっていない。

 東日本大震災の発生から約一ヶ月後のある日、近所の鰻屋を訪ねたら、高齢の男性が給仕をしてくれたが、彼は「実は、私は、東京電力の株を少々持っております。配当を目当てに買って、安定しているからいいと思っていたのですが、ひどい目に遭いました」と問わず語りに話しかけてきた。震災発生前には2千1百円台だった東京電力の株価は、その四分の一以下になっていた。もちろん、福島第一原子力発電所の問題が大きい。

 そして、さる5月6日、菅首相が、中部電力に対して、同社の浜岡原子力発電所の原子炉の運転をすべて停止することを「要請」し、同社は5月9日にこれに応じることを決定した。6日の株価は1766円だったが、9日はこれよりも182円も安い1584円となった。一気に1割以上の下落である。

 共に原子力発電所の問題で株価が下がったわけだが、短期間にこれだけ不安定な動きを見せられると、もう電力株を「ディフェンシブ銘柄」と呼ぶことは不適当なのではないかと思えてくる。

 考えてみると、過去「ディフェンシブ」とされた銘柄・業種も、その後ずっと安定しているという訳ではない。