脳科学が進めば
高精度の嘘発見も夢ではない

 例外は、母親が自分の子の嘘を見抜く場合だ。母親は自分の感覚知覚を総動員して、子どもの変化を観察する。したがって、子どもの細かい変化にも気づきやすく、結果として子どもの嘘を見抜きやすくなる。そのときに、上記の特徴のいくつかに照らし合わせている可能性は高い。

 このケースは、患者を診ている看護師や医者、あるいは介護の場面などにも見られるかもしれない。しかし一般的な場面で、誰かをそこまで細かく時系列的に観察するのは難しいだろう。

 実は私たちは、そういった個人内比較よりも、個人間比較をしてしまいがちで、それが判断を狂わせるのだ。つまり、正直な時のAさんと嘘をつくAさんを比較するのではなくて、AさんとBさんという個性の違う別の人物を比較してしまいがちだということだ。これにより、AさんとBさんの個性の違いを、嘘のシグナルとして誤解してしまう可能性がある。

 失礼な例えで申し訳ないが、麻生財務相は「片方の口角の上がった非対称の表情」をすることが多い。だからといって、麻生大臣が四六時中嘘をついているわけではないだろう。むしろこれはただの個性でしかない。

 それを、「他の人に比較して口角を上げた表情をしていることの多い麻生大臣は嘘つきだ」というのは、本質を分かっていない誹謗中傷でしかない。

 だが、だからといって、これらの特徴は意味がないわけではない。科学的にも重要視されている。スウェーデン、ヨーテボリ大学の心理学者、グランハーグらは、嘘を見破るためには、(1)生理反応の測定、(2)行動の観察、(3)発言分析、(4)脳活動の測定――これらを組み合わせることで、嘘の特徴を特定できるとしている。要は、正確かつ客観的に、上記の特徴を抽出することが重要なのだ。

 特に脳科学の分野は、現在まだ発展途上だ。最近では、京都大学の阿部修士准教授らのグループが、嘘をついたり、正直に話したりする際には、脳の側坐核と背外側前頭前野という部位が深く関わっていることを見出し、一流英文誌に掲載しているが、具体的にそれらの部位が、どう働いているのかはまだ謎である。これらの研究が発展していけば、やがては機械による高精度の嘘検知が可能になるだろう。

 しかし現時点では、会見や証人喚問の場面で、簡単に人の嘘を見抜けるほど、私たちの感覚は敏感ではない。結局、この問題で、誰が嘘つきかを知るためには、誰もが納得し、言い逃れのできない証拠が必要なのである。

 ただ、日本ではこれだけ盛り上がっている森友問題だが、筆者の住むマレーシアはもちろん、他の多くの国では、ほとんど報道されていない。世界からみれば、それよりも逼迫した問題が多くあるのだ。

 この問題は、確かに見過ごすことはできないけれど、日本国内外には、より重要な問題が山積しており、政治家はそちらにもっと注力してほしいと、筆者は個人的に思うのだが…。

(モナッシュ大学マレーシア校 スクールオブビジネス ニューロビジネス分野 准教授 渡部 幹)