西武グループは西武鉄道を中心とする運輸事業、プリンスホテルを中心とするホテル・レジャー産業がコア事業である。いずれも人命を預かり、生活基盤を支えることが基本で、そのうえに生活を豊かにするサービスを提供している。このような事業内容を持つ西武グループは、東日本大震災に際して、企業としてどのような責任を果たそうとしているのか。また、原発事故で大打撃を受けている観光産業をいかに立て直していけばよいのか。グループの総帥である西武ホールディングスの後藤高志社長が強調したのは、想定外の事態にも対応できる「現場力」の大切さである。
(聞き手/ダイヤモンド・オンライン 原英次郎、麻生祐司)

――5月に岩手県の雫石プリンスホテルなど、被災地を回られたそうですね。どのような感想を持たれましたか。

原発事故で海外からの観光客は壊滅状態<br />政府が機を見て世界に安全宣言を発信すべし<br />――西武ホールディングス社長 後藤高志ごとうたかし/1949年生まれ。72年東京大学経済学部卒、第一勧業銀行(現みずほフィナンシャルグループ)入行、2000年みずほホールディングス執行役員、2001年同社常務執行役員、2003年みずほフィナンシャルグループ常務執行役員、みずほコーポレート銀行常務取締役、 2004年みずほコーポレート銀行取締役副頭取、2005年西武鉄道代表取締役社長、2006年プリンスホテル取締役(現任)、西武ホールディングス代表取締役社長(現任)、2007年西武ライオンズ取締役オーナー(現任)、2010年西武鉄道取締役会長(現任)

 3月11日には、雫石プリンスホテルに約200名のお客さまが滞在されていましたが、全員、直ちに1階、2階のレストランに誘導し、そこで一晩過ごしていただきました。その後、激しい余震が起こり、お客さまからホテルのとった臨機応変な対応に感謝されました。私としては「現場力」に感謝です。

 一方、仙台、石巻、宮古、盛岡なども回りましたが、被災の状況は言葉で言い表すことができません。

日常の企業活動をしっかりやることで
復興に貢献していく

――西武グル-プのような事業内容を持つ会社としては、大災害に直面して、どのような行動が社会に貢献していくことになると思いますか。

 震災が発生してから2ヵ月が経ちますが、その間にグループの全社員に言い続けたことは、個人としても企業としても、それぞれがいかに震災の試練を乗り越えていくかを考えてもらいたいということです。

 具体的に言えば、企業活動を通じて、復興に貢献していく。鉄道事業であれば、その生業(なりわい)の基本である安心、安全、安定的な運行をしっかり確保していく。今回の大震災では、西武鉄道も含めて首都圏の鉄道会社は、脱線などの車両事故は皆無でした。これによって日本の鉄道技術の高さ、安全性の高さが立証されたと思っています。

 これからも、その技術や安全性をさらに高めていかないといけない。菅総理が浜岡原発の停止要請の根拠として、今後30年以内に東海地震が起こる確率が87%ということを挙げていたように、これから起こる可能性がある大きな地震に備えていかなければなりません。

 ホテル・レジャー事業については、福島の原発事故で大きなダメージを受けました。しかし、震災の前から日本は観光を成長戦略の柱にしていたわけで、その重要性はいささかも揺らいでいません。

 だから、過度の自粛は日本の復興のプラスにならないという見方については、私もまったく同感です。被災地や被災者と共に歩み、復興に貢献していくためには、日常活動をしっかりとやっていくことが重要だと思っています。

 加えて、プリンスホテルでは、東北の酒造メーカーがサプライチェーンの寸断や自粛ムードで日本酒が売れないというので、「がんばろう東北!」ということで、東北日本酒フェアを各地で行い、その売上の中から一部を義援金として寄託させてもらっています。そのように復興に少しでも貢献することを、グループ全体でやっています。