橘玲の世界投資見聞録 2017年4月27日

日本のマスコミが"極右"と報道する国民戦線ルペン党首の
目指すべき社会は「移民管理を徹底した日本」
[橘玲の世界投資見聞録]

国民戦線の本質は「防衛的ナショナリズム」

 EUの前身はECSC(欧州石炭鉄鋼共同体)で、その目的は、第三次世界大戦(核戦争)でヨーロッパを滅亡させないために、フランスがイタリアやオランダなど周辺諸国とともに、西ドイツの経済的発展を支えつつ軍事的台頭を押さえこむことだった。1992年のマースリヒト条約では、当時のミッテラン大統領が、ドイツ国民の悲願である東西の統一を認めることと引き換えに強力な通貨マルクを手放すよう西ドイツのコール首相に求め、イギリスのサッチャー首相の反対を無視してユーロ導入を強行した。ところがそのフランスで、10年もたたないうちに「EUは失敗だった」という国民感情が強くなっていく。

 2003年に実施された世論調査(BVA)では、回答者の70%がグローバル化と社会的不平等の拡大を結びつけ、半数以上の回答はグローバル化がナショナル・アイデンティティに脅威を与えているとこたえている。1998年から2002年にかけて実施された一連の世論調査でも、グローバル化をポジティブな変化と考える回答が50%から38%に減り、ネガティブな現象だとする回答が33%から46%に増加している。

 こうした国民感情の変化を読み取って、一時は新自由主義(ネオリベ)的な政策に傾斜していた国民戦線は「反グローバリズム」へと大きく舵を切る。2001年にジャン=マリー・ルペンはアメリカを「国家テロリズム」と呼び、「アメリカの政策によって巨大な苦しみと不正義が引き起こされ、無限のルサンチマンと憎悪が生み出されている」と批判した。翌02年の大統領選でジャン=マリーは決選投票に残って世界を驚愕させることになるが、フランス社会に「反移民、反EU、反グローバリズム」のゆたかな土壌ができていたことを考えれば、これは驚くような出来事ではなかった。

 国民戦線の魅力は、フランス現代社会の不安を簡潔に説明することだ。いわく、「移民がフランス人から雇用を奪っている」「移民が福祉制度を悪用するので福祉財源が逼迫している」「移民がドラッグやエイズをフランスに持ち込んでいる」「移民が犯罪やテロの温床になっている」「教育の荒廃も移民が増加したからだ」「低家賃住宅(HLM)が移民によって占拠されフランス人が締め出されている」「移民はフランスの社会・文化的同質性を破壊して多文化主義をもたらし、イスラームの侵入によってキリスト教文化が脅かされている」「多産な移民がこれ以上増加すると、白人でキリスト教のフランスはやがて“イスラーム共和国”になってしまう」などなど。

 こうして列挙してみると米大統領選でのトランプの主張や、日本の偏狭な右翼(ネトウヨ)の論理と重なるものも多い。グローバル化の時代には、「グローバリズム」を罵倒する主張もグローバルなのだ。

 畑山敏夫氏は国民戦線の本質を、「開かれた社会」への嫌悪感を煽り、「閉じた社会」への転換によって国民共同体を外側からの脅威から守ることをアピールする「防衛的ナショナリズム」だという。

 国民戦線を支持するフランス人の核にあるのは、「古きよき時代」へのノスタルジーだ。日本でいえば「三丁目の夕日」の昭和三十年代で、そこではモノクロのフランス映画のように、パリは華やぎ、郊外は犯罪もなく平穏で、そこでひとびとは愛を語らい人生を謳歌していたのだ。

 こうした理想郷を破壊したのがイスラーム圏からの移民であり、「開かれた社会」という偽りのユートピアを振りまくグローバリストだ。国民戦線の世界観では、彼らはフランスの「護民官」として、愛する故郷を破壊する「コスモポリタン勢力」とたたかっているのだ。

 国民戦線の政策は、合法的移民の停止、家族の呼び寄せ禁止、亡命権の制限、帰化以外での国籍取得の制限、婚姻による自動的帰化の見直し、失業中の移民の帰国、不法滞在や犯罪者の強制送還、10年期限の滞在許可の廃止、モスク建設の制限、外国人団体の統制などの「排外主義」で、フランス国民の優先的雇用(移民の優先的解雇)、フランス国民の低家賃住宅(HIM)への優先的入居、フランス国民への家族手当の限定と社会給付の優先的付与といった「自国民優先」の主張のなかには人種主義との批判を免れないものもある。

 しかしこれは、フランス国民(白人)を優越民族として北アフリカ出身の移民を差別・抑圧しているというわけではない。国民戦線の「物語」では白人こそがグローバリズムによって差別・抑圧されるマイノリティ(被差別者)であり、だからこそ、この哀れなひとたちを救済するための「正義のたたかい」に立ち上がるのだ。

5月7日はフランスの有権者が「開かれた社会」と
「閉じた社会」のいずれを選ぶのか、という選挙

 20世紀末に急速に進んだグローバル化と知識社会化によって西欧先進国の福祉国家モデルは軒並み破綻し、近代社会の行き詰まりが誰の目にも明らかになった。畑山敏夫氏は、このとき基本的に3つの方向性が呈示されたと述べる。

 ひとつは、近代の価値や経済社会モデルをさらに高度化する方向で、市場原理を徹底して、競争や効率性、生産性を極限まで追及し、国民国家の枠組みを超えて商品と資本の流通をグローバルに拡大しようとする。これが「ハイパーモダン」で、新自由主義に依拠したグローバル資本主義の処方箋だ。

 それに対して、経済成長優先の政策が格差を拡大し、エネルギーを枯渇させ、環境を破壊しているとして、グローバル資本主義=新自由主義を批判する勢力が声をあげるようになった。そのさきがけがドイツやフランスの緑の党で、WTO(世界貿易機関)を「グローバリストの悪の総本山」として派手な反対運動を展開し、世界金融危機後はウォール街を「金融グローバリストの悪の巣窟」として“占拠”する運動になり、最近では(バーニー・サンダースやメランションのような)ユートピア的左派ポピュリズムを熱狂的に支持している。彼らが主張するのが、近代の価値や経済モデルを超える「ポストモダン」の処方箋だ。

 その一方で、グローバル資本主義と敵対しつつも、「国民のための経済」を掲げるナショナリストの立場がある。ハイパーモダン(グローバリズム)を嫌悪しつつもポストモダンのきれいごと(近代=資本主義の超克)にも懐疑的で、国家のアイデンティティと国民の経済的利益を優先する立場を、畑山氏は「脱近代的近代主義」と名づける。

 一見矛盾したこの立場は、「脱近代」の時代にそれでも「近代主義」を復活させようとする。この不可能を可能にする“魔法の杖”が、社会を「閉じる」ことだ。

 国民戦線が提示するのは、「産業的で国民国家的な資本主義にノスタルジアを感じている労働者層に、富の再配分と不平等の縮小を担い、国民に限定した福祉国家のリソースを配分する“保護者国家”」のモデルだ。トランプの政策との同質性は明らかで、アメリカ大統領が露骨にマリーヌ・ルペンを支持するのも当然だろう。

 イギリスの国民投票やアメリカ大統領選、今回のフランス大統領選が明らかにしたのは、近代を徹底するハイパーモダンの処方箋が有効なのは、グローバル化した知識社会に適応できる能力(知能)を持つ都市部の(一部の)ひとたちだけだという現実だ。だが、知識社会から脱落しつつある白人層の多くは保守的で権威主義的なので、ポストモダン派のように社会をまるごと変えたいとも思わない。このような層に、「あのなつかしい時代に戻ろう」という脱近代的近代主義の処方箋は、(それが実現可能かどうかは別にして)きわめて効果的なのだ。

 フランス大統領の座をマリーヌ・ルペンと争うエマニュエル・マクロンはパリ政治学院、国立行政学院を卒業したエリートで、ロスチャイルド系の投資銀行に勤務したのち、オランド政権に加わり側近として重用された。この経歴を見ればわかるように、都市部のリベラルの支持を受けた「ハイパーモダン」のグローバリストであることは間違いない。5月7日は、フランスの有権者が「開かれた社会」と「閉じた社会」のいずれを選ぶのか、という選挙でもあるのだ。

 最後に付記しておくと、畑山氏はポピュリズムを一方的に「悪」と決めつけるのではなく、「体制にとって有害な影響をもつ可能性がある不満を集約し、枠づけるという意味で民主主義にとって「実用的」でもありうる」との説を紹介している。既成政党が近代の行き詰まりに対応できない以上、そこからこぼれ落ちるひとたちの不満は溜まっていく。国民戦線は彼らを暴力や反社会的行動に走らせるのではなく、投票所に向かわせることで、フランスの民主政治を“救済”しているのだ。――もっとも、それが「ガス抜き」の範囲に収まっていれば、の話だが。

 

橘 玲(たちばな あきら)

 作家。2002年、金融小説『マネーロンダリング』(幻冬舎文庫)でデビュー。『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎)が30万部の大ヒット。著書に『日本の国家破産に備える資産防衛マニュアル』『橘玲の中国私論』(ダイヤモンド社)『「言ってはいけない 残酷すぎる真実』(新潮新書)など。最新刊は、小説『ダブルマリッジ』(文藝春秋刊)。

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橘 玲(Tachibana Akira) 作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『(日本人)』(幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』(ダイヤモンド社)など。
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