国際通貨基金(IMF)は、予想より早く新しい専務理事を迎えることになりそうだ。私は10年以上前からIMFのガバナンスの欠陥を批判してきたが、それはIMFのリーダーの選び方にも象徴されている。IMFの出資比率の過半数を占める国々、すなわちG8の暗黙の了解によって、専務理事はヨーロッパ人、ナンバーツーのポストと世界銀行総裁はアメリカ人が占めることになっているのである。

IMF専務理事選考でも浮き彫り <br />ガバナンスの欠陥ジョセフ・E・スティグリッツ
(Joseph E. Stiglitz)
2001年ノーベル経済学賞受賞。1943年米国インディアナ州生まれ。イェール大学教授、スタンフォード大学教授、クリントン元大統領の経済諮問委員会委員長、世界銀行上級副総裁兼チーフエコノミスト等を歴任。現在はコロンビア大学教授。

 ヨーロッパ人もアメリカ人も、途上国には通り一遍の相談しかせず、通常は密室で候補者を選んできた。だが、その結果は、IMFや世銀にとって、また世界全体にとっても概して好ましいものではなかった。

 最も悪評が高かったのは、イラク戦争の主な推進者の1人だったポール・ウォルフォウィッツを世銀のトップに任命したことだ。世銀総裁としての彼の判断は、アメリカを破滅的な暴挙に関与させた判断と同じく、きわめてお粗末だった。世銀はアジェンダの第1項目に腐敗との戦いを据えていたものの、情実人事を批判されて任期半ばで辞任したのである。

 アメリカが引き起こしたグレートリセッションの後、ようやく新しい秩序が登場してきた感があるなかで、G20諸国は、IMFの次のトップはオープンかつ透明な方法で選ばれるべきだという考えで一致していた(少なくとも、一致していると思われていた)。そのような方法で選出されれば、結果はほぼ確実に新興国出身の専務理事になると考えられていた。なにしろ、IMFの主な責務は危機と戦うことであり、危機のほとんどは途上国で発生してきたのだから(30年ほど前に金融市場の規制緩和と自由化という破滅的な政策が始まってから、100件以上の危機が発生している)。新興市場には、こうした危機と戦った英雄が大勢いるのである。

 危機には慎重に対処する必要がある。1997年には、IMFとアメリカ財務省が東アジア危機への対処の仕方を誤ったために、景気の低迷が景気後退に、景気後退が不況に変わった。そのひどい展開を繰り返す余裕は、今の世界にはない。