中国 2017年5月8日

中国で大人気だった日本人俳優、小松拓也が
反日デモで仕事を失っても中国にこだわる理由

芸能界引退も考えた帰国後の日々

 反日デモの一部が暴徒化した映像は日本で大きく報道されたが、我々中国で暮らしていた日本人にとっても非常にショッキングな出来事だった。ある経営者は「自分がいままで中国でやってきたことはなんだったんだろう」と失望感を口にしていた。

 しかし小松さんは、日本に帰国したあとも中国と関わり続けようと決意した。中国で挫折を味わいながらも、なぜ折れずに深く関わり続けようと思ったのか。その理由は、小松さんが芸能生活をはじめたきっかけと無関係ではない。

 小松さんは高校生の頃にスカウトされたことで芸能界入りするが、そのスカウトした現所属事務所の社長は、偶然にも母親と同じ名前だった。小松さんが14歳の時、母親は交通事故で亡くなっているが、生前NHKの中国語講座を撮りためて中国語を勉強していた。驚いたことに、その母親と同じ名前の社長は、会うなり台湾への語学留学を勧めてきたのだ。小松さんは、運命を感じずにはいられなかった。

 小松さんは高校を卒業すると台湾に渡り、母親が熱心に勉強していた中国語を習得した。そして、2003年には台湾でCDをリリース。2万枚のセールスを記録し、一定の成功を収めた。

 ところが帰国すると、売れない不遇の時代が続いた。腐りそうになっていた時、芸能人生を賭けて臨んだのが、くだんの「加油! 好男児」だった。小松さんの人生の転機には、常に中華圏との関わりがあったのだ。

 その一方で、長く中華圏で活動して日本に戻った小松さんには戸惑うことも多かった。

 「帰国当初は、中国にいたあいだに勉強が疎かになっていたのではないかという反省で苦しんでいました。けっしてあぐらをかいていたわけではないのですが、中国でチヤホヤされていた時期があったのは確かです。日本の同世代の役者やミュージシャンと闘っていけるのだろうかと、自分の無力さを感じていました」

 小松さんはこの頃、芸能界からの引退が頭によぎるほど追い詰められていた。しかしそれを救ったのは、舞台だった。

 「久々に日本の舞台に出演してみたら、まだやれるというか、やってみたいという思いが芽生えてきたんです」

 上海での経験は無駄ではなく、その後、小松さんはフジテレビ「バイキング」のレポーターを務めたりドラマや舞台に出演したりと、日本での活動の場が増えていく。

 尖閣諸島国有化から1年が経つ2014年頃からは、在上海の日系企業のイベントに呼ばれたりファッションショーの司会をしたりと、上海での仕事のオファーも少しだが来るようになった。

 そして、15年に転機が訪れる。上海テレビの外国語チャンネルICSの番組「中日新視界」のプロデューサーからいっしょに何かやらないかと提案を持ちかけられたのだ。漠然とした誘いだったが、小松さんは上海在住の頃からやってみたいと思っていた演劇のプロデュースを実現してみようと考えた。これに賛同したのは、ドラマや舞台を中心に活躍する尾本卓也さん。ふたりは、上海で公演を行なうことになった。

 ただ小松さんは、1回だけで終わらせたくはなかった。これを日中の文化交流の場として続けていきたいと考えたからだ。

 「日中関係はこれからもアップダウンを繰り返していくのでしょうが、関係がよくなっても悪くなっても、文化交流を訴えかけていくことに意義があると思うんです」

 継続していくための受け皿として、小松さんは演劇ユニット「Team Moshimoshi?」を立ち上げる。「もしもし」という日本語は、中国人にも広く知られているが、「会話のはじまりであり、人と人とのコミュニケーションは相手を知ろうと言葉を投げかけてみたり、興味を持つことからスタートする」という意味が込められている。

 旗揚げ公演は、セリフが日本語のみだったため、日本語を理解できる中国人を対象に行なわれた。コメディであるため、理解されるか不安だったそうだが、客席からはちゃんと笑いが起きていたという。この公演の模様は、「中日新視界」でも放送された。

間もなく初日を迎える第3回公演の稽古場は和気藹々とした雰囲気だったが、芝居が始まると緊張感が張りつめる。小松拓也さんと主演を務める段文凝さん【撮影/大橋史彦】

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