シリコンバレーの会員制勉強会Churchill Clubは毎年、その年の10大テクノロジートレンドを占う会合を開催している。昨年の会合はシリコンバレーの著名人が顔をそろえたが、目新しいトレンドの指摘が少なく不評だった。それを意識してか、今回はやり方を大きく変えた。今年で13回目を迎えるこの会合には大手IT企業、バイオ関係者、クリーンテク関係者等が参加した。

 当地のシンクタンクSRI(Stanford Research Institute)の社長Curt Carlsonが10大トレンドを発表し、それにパネリスト4人が賛成・反対の意思表示をし、最後に会場の聴衆が賛否を表明する形で行われた。聴衆一人一人に採点を投票するワイアレス端末が配られた。1点(大反対)から10点(大賛成)のレンジで、7点から10点までの投票数を賛成票とみなして、電子集計の結果を会場の大画面に表示した。アメリカらしい言論デモクラシーである。

「有望な技術はヘルスケア、IT、ナノテクの交差点から出てくる」とオバマ政権のスタッフは語った2009年に米政府初のCTOに指名されたアニーシュ・チョプラ(Aneesh Chopra)氏。Photo: AP/AFLO

 今年の会合の大きな目玉は、アメリカ政府のCTO(最高技術責任者)と呼ばれるAneesh Chopraがパネリストの一人として参加したことである。彼はオバマ政権のスタッフとして米国の技術開発に大きな影響力をもつ人物である。ジョンズ・ホプキンス大学で学士を取り、ハーバード大学の行政学大学院(Kennedy School )で修士を取ったインド系アメリカ人である。

 彼は30分遅刻して会合に参加した。開口一番こう言った。「これからの米国経済の大きな成長機会はヘルスケアとITの交差点にある。ITを使った健康管理サービスが普及することによって、医療情報のデジタル化を促し、医療の質を向上させ、健康保険を扱う民間保険会社の変革を促し、その結果として健康保険料の増高を抑えられるからだ」。まさにオバマ政権が最も推進したいと思っている医療改革をテクノロジーの側面からサポートする発言であった。

 総合司会はいつものTony Perkinsである。かつてRed Herringと呼ばれるベンチャー専門誌を発行し、シリコンバレーに幅広い人脈を持つ有名人である。Aneeshのこの発言の後、Tonyが「それはヘルスケアではなく、オバマケアではないのか」と皮肉を述べて、会場は爆笑に包まれた。

 ほかの3人のパネリストは、シリコンバレーの代表的なベンチャーキャピタリストであるSteve Jurvetson、未来預言者として定評のあるPaul Saffo、それに今回初参加のAjay Royanである。Ajayはアブダビで育ちイエール大学で学んだユニークな経歴を持つようであるが、シリコンバレーでの知名度ゼロの謎の男である。風貌から見るとインド系ともアラブ系とも見える。筆者にはなぜこの人物がパネリストとして登場したのか理解に苦しむ。

 筆者の疑問はさておき、会合は熱気に包まれながらも淡々と始まった。SRI社長Curt Carlsonが提示した10大トレンドは以下の通りである。ここでは発表順ではなく聴衆の賛成票が多かった順に表示した。