今秋から来春にかけて発売する携帯電話のうち、約75%をスマートフォンにするというNTTドコモ。だが、この世界的な潮流の変化は、通信キャリアにとって大きな課題を突きつける。ネットワークの品質だけでは競争に勝てない――。「迅速さ」にこだわる山田社長に聞いた。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 池冨 仁)

――最近、山田社長は複数のメディアに対して、米アップルのiPhone販売の可能性について改めて言及した。このことで、「遂にドコモからも出るのか?」と、ツイッター上などで話題になっている。秘密主義で知られるアップルとしては、ドコモ側から「交渉中」と明かされたことに対して難色を示すのではないか。

NTTドコモ・山田隆持社長インタビュー<br />通信トラフィックだけに依存しない<br />“総合サービス企業”を目指すやまだ・りゅうじ/1948年兵庫県生まれ。73年大阪大学大学院修了後、日本電信電話公社(現NTT)に入社。長年、技術畑でキャリアを積むが、2002年にNTT西日本で常務取締役営業本部長を経験する。04年にNTT(持ち株会社)副社長を経て、07年にNTTドコモ副社長に転じた。翌08年より現職。自他ともに認める、阪神タイガースの大ファン。
Photo by Toshiaki Usami

 この話は、ずいぶんと誤解を与えてしまったようだが、ドコモの真意としては、「アップルとの交渉のチャンネルが切れたわけではない」と認めたに過ぎない。従来とスタンスは変わりなく、「iPhoneの販売を諦めたわけではない」という意味だ。今でも強力な商材としてのiPhoneは、ラインナップに組み込みたいと考えている。

 だが、この3年間で、モバイル業界をめぐる環境は、大きく変化した。私は、3年前も「iPhoneの販売を諦めたわけではない」と発言したが、現在はiPhone以外にも米グーグルのAndroid端末が各種登場しており、「iPhoneだけ」という状況ではなくなっている。

――つまりは、「アップルとの交渉で条件が折り合えば、iPhoneの仲間入りはウェルカムである」という方針に変わりはないということか。

 その点は、まったくスタンスを変えていない。だが、3年前とは状況が大きく異なっていることは、改めて強調しておきたい。

 今後、端末の種類も数も増えるAndroid端末は、カスタマイズが可能なので、iモード端末からの「おサイフケータイ」、「ワンセグ」「spモード」(@docomo.ne.jpのアドレスでインターネットメールが利用できる仕組み)などの機能を組み込むことができた。

 だが、iPhoneは、Android端末と同じようにはカスタマイズできないので、お客様に対して「残念ですが、iモード端末からの機能は使えません」と答えざるをえなくなってしまう。将来的には、Android端末が増えていくので、アプリケーションの開発者にとっても「どちらのアプリ市場を優先しようか?」と考えるようになるだろう。それでも、iPhoneは魅力的な端末には違いないので、ラインナップの1つに加えることはやぶさかではない。

 すでに米国では、AT&Tのほかにベライゾンもから発売されており、(通信キャリアを移動できる)SIMロックフリー版のiPhoneも出ている。現時点では、国内はソフトバンクモバイルさんが独占的に販売しているが、「iPhoneやiPadをドコモの通信回線で使ってみたい」というお客様に対しては、専用の“マイクロSIM”を提供してきた。海外で端末を購入してきた人などを中心に、今年4~6月で、ドコモは約6000枚のマイクロSIMを販売している。