そして、ついに社長が「今週中に試算表を出すように」と言い渡したところ、翌日A田から、社長宛に以下のようなメールが届いた。

 突然のメールですみません。実は退職させていただきたくお願い申し上げます。人間関係に悩み、もう我慢の限界です。私も必死に前任者から短期間で引き継ぎをしようと思い、休日出勤をしたり昼休みも取らずに仕事をしましたが、B美さんから悪口を言われたり罵られて、とてもストレスを感じていました。
 他の人からもいろいろと陰口を叩かれ、私が辞めることで、社内が丸く収まるのではないかと思いました。社長には本当に良くしていただいたので退職するのは残念ですし、自分の実力が何も発揮できないまま退職することが何よりも心残りです。
 ただ、これ以上、ご迷惑をお掛けできませんので退職をさせていただきます。短い間でしたが、お世話になりました。

 40代半ばで管理職経験もあるA田が、メール1本で会社を退職するなど、あり得ないと社長は驚き、呆れた。社長はA田に連絡を取ろうと何度も連絡したが、携帯もつながらず、メールの返信もない。結局、A田はそれっきり、出勤することはなかった。

採用ミスマッチを防ぐために
どんな対策を講じたか?

 後でわかったことだが、A田は経理課長をしていたといっても、御気楽商事に比べて規模が大きい会社だったので、事務的な実務に携わったことがほとんどなかったようだ。御気楽商事のような小規模の会社では、管理職といえども、プレイヤーとして活躍しなくてはならない場面も多い。

 今回のミスマッチは、A田を採用する際に、具体的なスキルチェックや適性などを見ることなく、「大きい会社で経理課長をしていた」というだけで、能力を過大評価してしまったことにある。

 御気楽商事では、専門家の意見を取り入れて、次のような取り組みをすることとした。

1.採用フローの見直し
 御気楽商事では今まで採用の際に、面接のみで「何となくいい人そう」という感覚で決めていた。そこで、今後は、以下のようなフローを取ることとした。

(1)会社説明会の実施
 社長自らが、応募者向けに会社の概要、経営理念、業務内容、必要としている人材などについて応募者に直接話をすることにした。

(2)試験の実施
 性格適性検査や、パソコンの入力、資料の作成など、職種に応じた業務のスキルチェックを行い、書類や面接では見えにくい部分を客観的に判断できるようにした。

(3)面接での質問項目の見直し
 面接では、本人がどのような業務を行ってきて、どのような結果を出してきたのかを具体的に聞くようにした。また、今までは面接官が通り一辺倒の質問をして、応募者に答えてもらうスタイルだったが、応募者に話をさせる面接へと切り替えた。面接担当者も専門コンサルタントから面接スキルの講習を受け、面接の質を向上させた。