たとえば、初診料270点、再診料70点(ベッド数が200床以上の病院)、虫垂切除術6210点、内視鏡的大腸ポリープ切除術(直径2㎝未満)5000点などで、この点数に1点あたり10円をかけたものが実際の医療費となる。病院や診療所の窓口では、患者はかかった医療費の3割(70歳未満、以下同)を自己負担し、残りの7割については、患者が加入している健康保険に対して医療機関が請求する。

 これが通常の医療費支払いの仕組みだが、なぜか交通事故によって受診した患者には、習慣的に自由診療を適用している病院や診療所もめずらしくない。国が管理している保険診療と異なり、自由診療の価格には縛りがないので、医療機関の「言い値」になる。そのため、保険診療なら1点あたり10円で計算するところを、1点あたり15円、20円などと高い価格で設定しているのが一般的だ。中には、1点あたり50円とべらぼうに高い価格を請求するところもあるようだ。

 Aさんが受診した大学病院は、自由診療の医療費を1点あたり20円で計算をしており、初診料5400円、手術9400円、画像診断4万200円、合計5万5000円となっていた。これを健康保険の医療費に直すと、初診料2700円、手術4700円、画像診断2万100円、合計2万7500円だ。さらに健康保険では患者は3割を自己負担すればいいので、窓口で支払うお金は8250円でよい。同じ治療でも、健康保険が使えないと患者の負担は4万6750円も多くなる。

 実際、こうしたケースに出会うと、にわかに「交通事故は健康保険が使えない」という都市伝説は現実味を帯びてくる。しかし、法律では「交通事故でも健康保険は使える」ということが決められているのだ。

 1968年10月に厚生省(現・厚生労働省)が出した課長通知には、「自動車による保険事故も一般の保険事故と何ら変りがなく、保険給付の対象となるものであるので、この点について誤解のないよう住民、医療機関等に周知を図るとともに、保険者が被保険者に対して十分理解させるように指導されたい」と明記されている(昭和43年10月12日 保険発第106号「健康保険及び国民健康保険の自動車損害賠償責任保険等に対する求償事務の取扱いについて」)。