橘玲の世界投資見聞録 2017年7月6日

インドの保守政権を牛耳る
ヒンドゥー至上主義者たちのねじれた民族主義
[橘玲の世界投資見聞録]

ヒンドゥー至上主義のねじれた民族主義(ナショナリズム)

 RSSはインド各地に「シャーカー」と呼ばれる支部を置き、その数は数千から数万に達する。毎日数十万人、おそらく100万人近くのインド人男性が夜明けとともに地域のシャーカーに集まり、ヒンドゥーのシンボルであるサフラン色の旗に敬礼し、ヒンドゥー至上主義の賛歌「ヴァンデ・マタラム(母なる大地、万歳)」を歌う。その後、彼らは武術の訓練をしたり、思想教育を受けたりする。

 シャーカーの制服は、イギリスの植民地警察が着ていたカーキ色に、ムッソリーニのファシスト党の黒シャツ隊の制服の細部を組み合わせたものだ。これは、1925年にRSSが創設されたときに、黒シャツ隊をモデルにしたからだという。

 シャーカーの活動は、ナチスの青少年組織ヒトラーユーゲントによく似ている。たとえばRSS式の敬礼は、気をつけの姿勢で直立し、右腕を掌を下に向けて胸の前に伸ばす。

 もちろんRSSは、自分たちの組織をファシズムやナチスと比較されることに強く反発するだろう。実際、ナーグブルの旧市街の中心にあるRSSの公式本部を訪れたルースは、そこで穏やかで礼儀正しいメンバーと出会う。彼らは、ファシスト思想は一人の指導者の個人崇拝を軸に築かれるのに対し、RSSは集団指導体制で根本的に異なると反論する。

 ヒンドゥー至上主義者によれば、インド社会の宿痾であるカースト制はインド固有のものではなく、イギリス植民地政府が統治のために人工的につくりだしたものだ。以前紹介したように、この主張に根拠がないわけではない。

[参考記事]
●インドはいつから「インド」になり「カースト制度」はいつから始まったのか?
 

 しかしそのヒンドゥー至上主義の団体であるRSSの組織や活動は、インド固有の伝統ではなく、「ヨーロッパ的」なるものが生み出したファシズムに倣っているのだ。

ヒンドゥー団体のパレード(マハーバリプラム)  (Photo:©Alt Invest Com) 

 

 ヒンドゥー至上主義のねじれた民族主義(ナショナリズム)はこれだけではない。

 ルースは取材で、VHP(世界ヒンドゥー協会)が経営するナーグプル近くの「牛製品研究センター」を訪れる。そこでは多数の牛が飼育されているのだが、研究員はこう説明する。

 「ここにいる牛はヒンドゥスタンの純粋種です。外来種と固有種を分けるのに長い時間がかかりました。固有種のほうがあらゆる面ですぐれています」

 研究センターでは、純粋種の牛から伝統的な5種類の牛製品を開発し、世界に輸出するための事業化を目指している。それはミルク、ギー(精製バター)、バター、尿、糞だ。

 最初の3つはわかるとして、尿と糞はなにに使うのだろう。

 研究者はビーカーに入れた尿をルースに見せて、「これはがんに効果がある抗酸化物質です」といった。それ以外にも、気管支炎や肥満に効くもの、エネルギーを与えるもの、血液をきれいにするものなど、尿由来製品がいくつもあった。

 牛糞からも同様に、さまざまな製品がつくられている。代表的なものは石鹸と、牛糞のふけ取りシャンプーだ。

 「牛糞には神が宿っているのです」と研究員はいう。「こうしたレシピはすべて(ヴェーダ)経典のなかに書かれています」

 デリー大学の歴史学者D.N.ジャー教授は『聖なる牛の伝説』で、古代のヒンドゥー社会ではバラモンを含む大部分が牛肉を食べていた証拠を示したが、この本はBJPによってただちに発禁処分になった。ジャー教授は右派の過激派学生から「殺してやる」との脅しを受け、しばらくはキャンパス内の居住棟から出ることすらできなかったという。

路上を徘徊する聖なる牛(オールドデリー)           (Photo:©Alt Invest Com) 

 

 「牛製品研究センター」の目的は、聖なる牛の恵みを活用して、インドの伝統的な村の経済を復興させることだ。これは「土地に根ざした生産」を掲げてフランス農民同盟を主導し、GMO(遺伝子組み換え作物)やホルモン肥育牛肉の輸入に反対して、建設中のマクドナルドの店舗を破壊して世界的に有名になったジョゼ・ボヴェ(現在は欧州議会議員)の「反グローバリズム」とまったく同じだ。

 ヒンドゥー至上主義はヨーロッパ文明から、ファシズムだけでなくアンチグローバリズムやオカルト科学も学んだようだ。だとしたら、「インド的」なるものの実体はいったいどこにあるのだろう。

 

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橘 玲(たちばな あきら)

 作家。2002年、金融小説『マネーロンダリング』(幻冬舎文庫)でデビュー。『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎)が30万部の大ヒット。著書に『日本の国家破産に備える資産防衛マニュアル』『橘玲の中国私論』(ダイヤモンド社)『「言ってはいけない 残酷すぎる真実』(新潮新書)など。ダイヤモンド社から新刊『幸福の「資本」論 -あなたの未来を決める「3つの資本」と「8つの人生パターン」』が発売中。

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橘 玲(Tachibana Akira) 作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『(日本人)』(幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』(ダイヤモンド社)など。
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