前回は、潜在的なニーズの引き出し方をテーマにお話ししました。BCGデジタルベンチャーズ(BCGDV)では、その潜在的ニーズからビジネスを創造するというプロセスにおいて、「デザインシンキング」というビジネス手法を用いています。

 デザインシンキングとは、人間・カスタマーを起点に発散と収束を繰り返す、問題解決のための思考法の1つです。具体的にそのプロセスを説明すると、まず、前回ご説明したエスノグラフィックリサーチと呼ばれる手法などを活用して、カスタマーへのインタビューや観察を通し、徹底的なカスタマー視点でニーズをあぶり出すことから始め、数十から数百のアイデア出しをします。それからプロトタイプに落とし込み、カスタマーのフィードバックを見て、何度もつくり直しをしながら、プロダクトや事業内容を練り上げていく、という過程を繰り返し行います。

 このデザインシンキングを活用した手法は、アップル社・マッキントッシュの初代マウスを始め、さまざまなプロダクトやサービスを生み出している米国のデザインファームIDEO(アイディオ)がはじめに実践したことで知られ、その後欧米のクリエイティブ領域のビジネスやスタートアップなどで広がりました。

 今回は、日本のビジネス界でのデザインシンキングの受容のされ方やデジタルビジネスとの関係性、BCGDVでこのデザインシンキングをどのように活用しているのかなどについて、BCGDVのメンバーとの座談会形式でお届けします(平井)。

「デザインシンキング」になぜ日本企業も注目し始めたのか

◆出席者
平井陽一朗(BCGDV ジャパンヘッド)
安部聡(同 リードベンチャーアーキテクト)
山敷守(同 リードプロダクトマネジャー)
花城泰夢(同 リードエクスペリエンスデザイナー)
椋野寿恵(同 シニアストラテジックデザイナー)

デザインシンキングを
大企業も取り入れ始めた

平井 デザインシンキングは、日本ではまず2000年代初頭に一瞬注目を浴びたんだよね。でも、当時はあまり浸透しなかった。それにはどんな要因があったと考えてる?

椋野 まず、前提としてデザインの定義が欧米と日本ではちがう、という点が大きいかな、と。「デザイン」と言うと、日本だとアートの領域をイメージしてしまいがちです。でも、欧米での定義はもっと広くて、それこそビジネスから貧困などの社会的問題まで、さまざまな課題を解決するためのプロセスのことを「デザイン」と呼んでいます。