米国の信用リスクが欧州のソブリン危機と相俟って、金融市場を直撃している。米国債の格下げをきっかけに、景気後退懸念に拍車がかかった格好だ。各国の株価は一時軒並み暴落し、未曾有の円高ドル安が進んだ。9日に発表されたFOMCの声明を受け、マーケットは一時落ち着きを取り戻したものの、依然として不安定な展開が続く。世界経済を腰折れさせかねない今回のパニックの本質は何か。そして、金融市場が危機に対処するために模索すべき体制とは。マーケットに精通し、欧米のクレジットバブルに警鐘を鳴らし続けてきた倉都康行・RPテック代表取締役に聞いた。(聞き手/麻生祐司、原英次郎、小尾拓也)

FOMC声明で当面の危機は去ったか

――ここ数日間、世界のマーケットは暴落劇を演じた。ニューヨーク株式市場は一時史上6番目の下げ幅を演じ、日経平均も9000円を割り込んでしまった。8月9日のFOMC(連邦公開市場委員会)において、FRBが事実上のゼロ金利政策を2013年半ばまで続ける声明を出したことを好感し、世界のマーケットは一時反発したが、その後も依然として不安定な展開が続いている。今回の声明の効果をどう見ているか。

異例の金融緩和持続でも解消しない米国リスク<br />「金融史の大転換点」に立つマーケットの未来<br />――倉都康行・RPテック代表取締役に聞くくらつ・やすゆき/RPテック(リサーチアンドプライシングテクノロジー)株式会社代表取締役。1955年生まれ。東京大学経済学部卒。東京銀行、バンカーストラストを経て、チェースマンハッタンへ移籍。チェース証券取締役東京代表を経て、2001年4月に独立、現在に至る。著書に『投資銀行バブルの終焉―サブプライム問題のメカニズム』(日経BP社刊)がある。

 今回のFOMCでは、QE3(量的緩和第3弾)に関する声明が出るのではないかと予測する向きもあったが、私は大きな決断はなされないと見ていた。事実、QE3は言及されなかった。

 しかし、米国が向こう2年間も超低金利を続けることを決断したことは、サプライズだった。これは言い換えれば、2年間にわたって金利にキャップを付けるということであり、少なくとも2年債に関しては、これ以上金利を上げないということを意味する。

 これは金融緩和というよりも、もはや「金利管理」に近い。今回のFOMCで景気見通しが下方修正されたことを見ても、FRBは景気後退への危機感を強く持っていることがうかがえる。足もとでマーケットは落ち着きを取り戻しつつあるが、金融緩和そのものに景気の浮揚効果はない。米国に対する不安は今後も続くだろう。

――債務上限引き上げ問題で揺れた米国の財政不安は、頂点に達していた。そもそもマーケット暴落のきっかけとなったのは、米国債の格付けがAAAからAA+に引き下げられたことだった。マーケットの心理を分析する上で、米国の財政不安と景気後退懸念の間には、どんな関連性があったと考えるか。

 米国債の格下げをきかっけに株式が急落したのは確かだが、マーケットが本当に恐れたのは米国の景気後退だった。格下げが経済に与えるインパクトに不安が募ったのだと思う。