民間金融機関が国家への融資を積極的に担うようになったのは1970年代以降のことだ。先鞭をつけたのはシティバンクで、当時のCEOウォルター・リストンが「国家は破産しない」と言い切ったのは有名な話だ。無責任な借り手がいれば、その相手方として、必ず無責任な貸し手がいる。繰り返されるソブリン債務危機のこの根本原因をどう解決すればよいのか。ノーベル賞経済学者のエドムンド・フェルプス コロンビア大学教授と金融システムに精通する気鋭の経営学者、アマル・ビデ タフツ大学教授が共同提言する。

 ギリシャ債務危機は、およそ想像を絶するレベルで欧州諸国の財政を統合しなければ、ユーロは存続できないのではないかという疑念を呼び起こした。

 だが、もっと簡単な道はある。各国政府が国際信用市場で無責任な借金を重ねるとしたら、相手方として、無責任な貸し手がいるはずだ。銀行規制機関は、すでに監督下にある金融機関に対して、そういう融資をするなと言えばいいのだ。

 外国政府への融資は、無保証の民間債券やジャンク債への投資と比べても、多くの点で本質的にリスクが大きいと言える。民間の借り手は、多くの場合、住宅などの担保を提供しなければならない。担保により貸し手側のダウンサイド・リスクは制限され、担保とした資産を手放す恐れから、借り手はより賢明に行動するようになる。

 だが、政府は担保を提供しない。それどころか、返済しようという主なインセンティブは国際信用市場を利用できなくなるのではないかという不安であり、それは困った借金癖から生まれるものだ。国内での課税や債券発行では歳出を常習的に賄えない政府は、海外からの巨額の借り入れを続けなければならない。その背景には、たいてい、深く根を張ったガバナンス不全(misgovernance)がある。

 民間の債券は通常、債務者が無謀な賭けに出にくいようにする約定を伴っている。融資・債券約定では、債務者が最低でも一定の基準の自己資本ないし現金資金を維持することに同意するよう義務づける場合が多い。これに対し、政府発行債券にはそのような約定は付随しない。

 同様に、民間の借り手が銀行融資を確保するために自らの財務状況について虚偽の表示をした場合には刑事罰を受ける可能性がある。証券関連法により、社債発行体は想定されるすべてのリスクを開示しなければならない。対照的に、ギリシャの混乱を見れば分るように、政府はとんでもない虚偽表示や詐欺まがいの会計処理をしても何のペナルティも受けない。