橘玲の世界投資見聞録 2017年7月28日

道に牛が歩いているかと思うと「近未来」が現れるインドの衝撃
[橘玲の世界投資見聞録]

インド入国時の日本人だけの特権

 高額紙幣廃止でもっとも大きな打撃を受けたはずの富裕層・中間層はどうなったのだろうか。これについても黒沼記者が、「モディ首相 脱税に心理戦」(2017年5月30日付日経新聞)で内幕を暴いている。

 それによると、ニューデリーに住む50歳代の主婦は高額紙幣廃止後に、夫の申告漏れ所得で蓄えた40万ルピーを宝飾店に持ち込み同額の金製品を購入した。そのとき店主が渡した領収書には、紙幣廃止が始まる前の日付が記されていた。主婦は旧紙幣を金に「マネーロンダリング」し、店主はこの偽造領収書の控えを使って何食わぬ顔で旧紙幣を銀行に預け入れたのだ(紙幣廃止前の取引は税務当局への情報提供の対象外)。

 またある企業は、高額紙幣を小額紙幣や新紙幣と交換できた11~12月のうちに、不正に蓄えた現金を「半年分の給料」と称して前払いした。従業員はそれを各自の口座に預金し、ほとぼりが冷めたころに新紙幣で引き出し会社に返すように指示されたのだという。

 現実には、こうしたさまざまな“抜け道”を使って富裕層・中間層は容易に難を逃れることができ、だからこそ大きな抵抗を引き起こすもなかったのだろう。

 統計を見ても、2017年1~3月の経済成長率は従来の7%台から6.1%へと落ち込んだものの、個人消費は前年同期比で7.3%増と堅調だった(減速の要因は設備投資減)。3月11日開票の地方議会選挙でもモディ率いるBJP(インド人民党)は大勝し、北部ウッタルプラデシュ州など2州では州議会議席の8割を獲得、過半に届かなかった2州でも地元政党と連立を組み州与党の地位を押さえた。インドでは上院議員は州などの地方議会が選出するため、BJPが多数派を占める下院とのあいだで“ねじれ”が生じていたが、相次ぐ地方選の勝利で、来年4月にも国民議会派を上回り上院でも与党第一党になると予想されている。「モディは賭けに勝った」というのが、高額紙幣廃止の現時点での評価のようだ。

ホテルのレストランで食事するグルグラムの富裕層  (Photo:©Alt Invest Com) 

 

 この勢いを受けて懸案だった全国統一の物品サービス税(GST)が、7月1日に導入された。

 インドでは中央政府と州で少なくとも15の異なる税制があり、「州を超える書類審査のために3日かかる」と揶揄されるような非効率な状態がつづいていた。1947年の独立後で最大の税制改革とされるGSTでは州税を廃止し、5%、12%、18%、28%の4段階の税率にまとめることになった(本来は単一税制が望ましいが、4段階で決着するまではさまざまな政治的駆け引きがあったようだ)。

“ヒンドゥー至上主義”のBJP政権のもとでインドは「中世」に戻りつつあるという意見もあるが、その一方で着実に改革は進み、なかには日本をはるかに超える「近未来」に踏み出している分野もある。そんな混沌としたところがインドのいちばんの魅力なのだろう。

 なお、インド入国の際のVISA制度もこの国らしく試行錯誤がつづいており、前回(2015年12月)は電子ツーリストビザ(eTV)を利用したが、2016年3月から到着時に空港で取得できるアライバルビザが復活し、現在は日本人観光客のみが対象になっている(安倍首相とモディ首相のトップ会談で決まったらしい)。

 ニューデリー国際空港に到着すると入国審査場の長蛇の列に驚くが、日本人だけはそれをやりすごして「Visa on Arrival」のブースに行く。入国審査の書類に記入し、ビザ料金(2000ルピー)をクレジットカードで支払い、パスポートにVISAのスタンプを押してもらって完了だ。

 私が訪れたときは深夜でアライバルビザのブースは電気が落ちていたが、よく見ると隅で寝ているひとがいる。仕方がないのでそのおじさんを起こしたら担当者で、眠そうな目をこすりながら手続きしてくれた。過去にインドに入国した記録があれば指紋と顔写真の登録は免除される。

 アライバルビザを取得したあとは、裏口のようなところから荷物受け取り場に出ることができる(わかりにくいので係員に聞いてみよう)。日本で電子ビザを申請することもできるが、これだと他の国の観光客といっしょに入国審査の列にえんえんと並ばなくてはならないので、日本人の“特権”としてぜひ利用したい。混沌のインドが、あなたを迎えてくれるはずだ。

近代的なニューデリー国際空港           (Photo:©Alt Invest Com) 

 

 

橘 玲(たちばな あきら)

 作家。2002年、金融小説『マネーロンダリング』(幻冬舎文庫)でデビュー。『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎)が30万部の大ヒット。著書に『日本の国家破産に備える資産防衛マニュアル』『橘玲の中国私論』(ダイヤモンド社)『「言ってはいけない 残酷すぎる真実』(新潮新書)など。ダイヤモンド社から発売即大幅重版となっている新刊『幸福の「資本」論 -あなたの未来を決める「3つの資本」と「8つの人生パターン」』が好評発売中。


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橘 玲(Tachibana Akira) 作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『(日本人)』(幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』(ダイヤモンド社)など。
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