上海でも市民の抗議行動
中国社会の信じられない変化

 中国各地で国民の不満が噴出している。今夏、上海虹橋国際空港では、近隣住民が飛行機の騒音で安眠できないことを理由に抗議活動を行った。警備の厳しい上海の空港で抗議活動が起こるとは、信じられない変化である。

 従来、上海市民は物言わぬ、賢い市民という側面を持っていた。不動産価格が異常に値上がりしても、インフレで物が買えなくてもひたすら耐えることを知っていた。抗議行動などはこの中国ではタブーとされているのが常識だからだ。

 ようやく手に入れた今の生活は、過去と比べて格段に向上している。商売もうまく回っているわけで、みすみすそれを捨てるような抗議行動などは、愚か者のすることだという認識もあった。

 騒音問題は今に始まったことではない。筆者はかつてから虹橋空港近くに住む主婦らの不満を耳にしていた。ひとりの主婦がこぼしていたことは記憶に鮮明だ。「騒音がひどいなら転居すればいい。問題なのは転居できないことだ」――。

 上海市民にとって転居といえば、「住宅の買い換え」を意味する。国有企業の払い下げを受けた上海市民はほぼ「持ち家あり」に相当するためだ。この主婦が訴えようとしたのは「不動産価格がここまで高騰してしまうと、移動の自由もままならない」ということに他ならない。

 ちなみに、彼女が2000年代前半に購入した集合住宅は、老朽化にもかかわらず今や100万元(約1200万円、1元=約12円として)の資産になった。だが、100万元で売却したところで、買い換えできる住宅は周辺から姿を消してしまっている。

 騒音被害による抗議行動の背景には、その地を離れられない住民の「窮鼠猫を噛む」といった心理も反映されている。