2020年開催の東京オリンピックのメイン会場となる新国立競技場。土壌改良工事をしていた建設会社の社員の男性(23歳)が、1ヵ月間で約200時間の残業を行い、今年3月に失踪、自殺していた。ここ数年、建設業界の人手不足と過重労働が懸念されてきたが、遂に悲劇が起こった。今後どのような対策をとるべきなのか。遺族の代理人を務める川人博弁護士に話を聞いた。(週刊ダイヤモンド編集部 岡田 悟)

――自殺は過重労働が原因だとして、遺族が労災申請をしています。労務管理が不適切だったことは勤務先の企業も認めていますが、過重労働はこの企業特有の問題なのか、新国立競技場の建設現場全体に共通する問題なのか、どうお考えですか。

新国立工事の過労自殺、遺族代理人弁護士が指摘する「真犯人」深夜は静まり返る、新国立競技場の建設現場。問題発覚後、詰所は午後8時以降に閉鎖されるようになった Photo by Satoru Okada

 断定的なことは言えませんが、建物のデザインが途中で変更され、工期が当初よりも遅れている。そういった中で始まった工事です。

 五輪の開催そのものが延期されることは絶対にないわけですから、工期は伸ばせない。新国立競技場の工事関係者にかかっている、強い精神的なプレッシャーがあることは間違いありません。

――勤務先の企業は当初、遺族に対して、1ヵ月あたりの残業時間が80時間以内だったと説明していましたが、調査の結果、男性が失踪する前の1ヵ月間で211時間56分と、違法な時間外労働が行われていたことがわかりました。

 労働基準法第36条で定められたいわゆる「36(サブロク)協定」では、時間外労働を1ヵ月につき原則45時間、特別の場合80時間までに制限しています。

 職場の慣行として、実際には80時間以上の時間外労働をしていても、80時間にぎりぎり満たない時間で申告させていたのでしょう。当初の遺族への説明内容は虚偽だった。

 こうした過少申告の慣行は、多くの企業や職場で見られることです。私が遺族の代理人となり、再調査を強く求めた結果、今年2月の1ヵ月間だけで193時間超という、極めて長時間の残業が明らかになりました。