「破壊的イノベーション」の理論で著名なハーバード・ビジネス・スクール教授のクレイトン・クリステンセンが、アップルやグーグル、アマゾン・ドットコムを差し置いて世界で最もイノベーティブな企業とするのが、セールスフォース・ドットコムだ。同社は、クラウド型エンタープライズ・ソリューションのリーダー企業として知られ、ここ5年の平均売上高成長率が70%以上と急成長を続けている。8月末から9月初頭にかけてサンフランシスコで開催された同社のユーザー/開発者向け年次イベント「ドリームフォース」も、業界の新たな盟主への期待を反映して熱気に包まれていた。

社会変革の波を企業の力にする

「社会を変えていく力を企業経営に生かす」<br />世界一イノベーティブな企業が先導する、<br />ソーシャルエンタープライズへの3つのステップ今回のドリームフォースではマーク・ベニオフの基調講演のなかで、「トヨタフレンド」のプロトタイプとして、セールスフォースのコーポレートロゴでカラーリングされたプリウスが登場。(写真は基調講演のストリーミング映像より)

 イベント2日目、朝9時から始まった今回最初の基調講演のステージに立ったセールスフォース・ドットコムの会長兼CEO、マーク・ベニオフは、会場を埋め尽くすゆうに1万人を超える聴衆に対し、渾身のプレゼンテーションをみせた。その巨躯をステージ上ところ狭しと動かすばかりか、聴衆席の間を歩き回り、大きな声とジェスチャーで煽情的なスピーチをして聴衆との一体感を醸し出す。


インターネットでのライブ配信のための放送用のカメラが数台、その激しい動きを瞬間たりとも逃すまいと執拗に彼を追い続ける。インターネットの向こう側にいるさらに3万5000人以上のライブ配信に登録した視聴者のために。

 今回のドリームフォースへの登録参加者は約4万5000人。前年比50%アップの急拡大で業界最大級のイベントになったと主催者は発表したが、舞台演出においても一級のエンターテインメントを指向していたわけだ(ちなみに、アメリカを代表するヘビーメタルバンド、メタリカのライブも今回のイベントに含まれている)。

 ベニオフが今年のドリームフォースに設定したテーマは、彼がそのパフォーマンスに存分に傾けた熱意になるほど似つかわしいものだった。

「ソーシャルエンタープライズ」。それが9回目となるこのイベントのテーマだ。

 ソーシャルエンタープライズとは何か。詳しくは後述するが、単純に要約してしまえば、ビジネスの顧客や従業員との関係性構築に、いま日本でも注目されている「フェイスブック」「ツイッター」といったSNS、ソーシャルメディアと呼ばれるツールを効果的に活用する組織になることを意味する。

 ベニオフがソーシャルエンタープライズを語るにあたって、何度となく引き合いに出したのが「アラブの春」だ。「アラブの春」とは言うまでもなく、この1年足らずの間に起きている、北アフリカで始まったイスラム諸国の独裁体制の崩壊現象のこと。

 ステージの背後に設置された50メートルの競技用プールほどはあろうかと思われる巨大スクリーンに「アラブの春」に関連した報道写真を何枚も映し出しながら、ベニオフは言う。

「見てください。様々な言語ですが、どの写真にも書いてあるのは『ありがとう、フェイスブック』という言葉です。かつてこのような場面で『ありがとう、IBM』『ありがとう、マイクロソフト』なんてあるのを見たことがありますか。ソーシャルメディアが社会を変えています。アルジェリアの一人の若者の発言が体制を壊すまでになる。同じことが企業と顧客の間でも起きるかもしれません。顧客はすでにソーシャルメディアを活用しています。いまビジネスに必要なのはこの力をむしろ主体的に取り込んでいくことです」

 ベニオフの扇動的なメッセージに会場はさらに熱狂の度合いを高めた。