『週刊ダイヤモンド』8月26日号の第1特集は「自衛隊・防衛ビジネス 本当の実力」です。北朝鮮のミサイル挑発、中国の海洋進出──。日本の安全保障が脅かされるような緊迫した事態が続いています。にもかかわらず、日本の防衛政策をあずかる防衛省・自衛隊は内輪揉めを繰り返しています。これでは、とても日本の有事を守れる体制にありません。日本の「防衛力」は危機的状況にあるのです。

 長崎県佐世保市──。8月上旬、陸上自衛隊(陸自)の相浦駐屯地の内部では、自衛隊員たちが上を下への大混乱の状況に陥っていた。

日本の自衛隊初となる「水陸機動団」の始動が2018年3月に迫っており、急ピッチで準備作業が進められているのだ。

 部隊の主力は、陸自の西部方面普通科連隊(西普連)。西普連といえば、第1空挺団と双璧を成す、陸自きっての精鋭部隊である。実際に、レンジャー資格を持った隊員比率が非常に高い。

 西普連部隊は700人に加えて、全国からえりすぐりのエリート隊員を集めて、将来的には水陸機動団を3000人規模の大部隊とする方針だ。

 水陸機動団は、離島が他国に侵攻されたときに、いの一番に駆け付けて最終的に島を奪還することをミッションとしている。

 ウエットスーツに身を包み、足にはフィン(足ヒレ)を装着し、高速ボートに乗って完全武装で敵地へ潜入する──。水陸両用戦を展開することから、〝日本版海兵隊〟という触れ込みだ。

 近年、中国船が尖閣諸島へ接近する挑発行動が頻発していることから、水陸機動団は、対中国を想定した島しょ防衛の要としての役割を期待されている。

 相浦駐屯地の中でも、最も忙しいのが水陸機動団準備室。人材のリクルーティング、武器や資材の調達、作戦・運用のマニュアル作成などが仕事で、装備品の調達一つとっても、何もかもが足りない状況なのだという。寝る間も惜しんで〝24時間勤務〟で働いている隊員もいるのだとか。

 島しょ防衛は、数ある自衛官の仕事の中でも、最も過酷で、強靱な精神力なくしてできない任務だ。現場の隊員たちは、身命を賭す覚悟で任務を全うしているのだ。

防衛七族で繰り返される
終わりなき権力闘争

 それに比べて、東京・市谷の防衛省・自衛隊で繰り広げられた権力闘争とは何だったのか。

 今夏、南スーダン国連平和維持活動(PKO)の日報問題をめぐり、稲田朋美・前防衛相、黒江哲郎・前事務次官、岡部俊哉・前陸上幕僚長の3トップが辞任することで幕引きとなった。

 一連の問題を通じて、日本の防衛政策を預かる防衛省・自衛隊の構造的欠陥が次々と明るみになっていった。文民統制(シビリアンコントロール)の機能不全、陸上自衛隊の隠蔽体質、背広組と制服組との確執、陸・海・空の縄張り意識──。

 なぜ防衛省・自衛隊でスキャンダルが繰り返されるのか。その背景には、根深い権力闘争がある。

 防衛七族──。防衛省・自衛隊には、7種類の人間がいる。

 すなわち、①政治家ポスト(大臣や政務官など)、「背広組」の②事務官、③技官、④教官、そして、「制服組」の⑤陸上自衛官、⑥海上自衛官、⑦航空自衛官の7族である。

 これだけ異なる背景を持った者同士が同じ組織にいればもめ事が起こらないわけがない。

 あまり知られていないが、防衛省と自衛隊は同一組織である。行政組織としての意味で「防衛省」、武力を伴う実行組織としての意味で「自衛隊」と、呼び名を区別しているだけのことだ。

 防衛省と自衛隊。両者は対等な関係であるにもかかわらず、あたかも防衛省が「本社」、自衛隊が「子会社」と思われがちだ。世間一般の人はもとより、当の防衛省・自衛隊の職員たちがそう認識するようになったのは、ひとえにキャリア官僚への恐れからだ。

 ある防衛省キャリアは、自分たちのことを「警備会社の企画営業職のようなもの」と話す。となれば、制服組はさしずめ「ガードマン」といったところだ。

 だが、現場が営業に口を挟まぬ民間の警備会社と違い、防衛省・自衛隊の制服組は、陸・海・空の実行組織、それぞれの思惑から本社の背広組を突き上げることもある。

 3自衛隊の中で唯一、旧軍の正式な伝統継承者を自任する海上自衛隊は、旧海軍同様、政治に口を挟むことをよしとしない。だから防衛省内での覇権争いでは陸・空に比して割を食いがちだ。

 対して、戦後発足した航空自衛隊は旧軍とのしがらみがない組織で、何物をも恐れず発言する気風を持つといわれている。これが省内外を巻き込んでのトラブルとなることもしばしばだ。

 他方、戦前の旧陸軍からの伝統継承はないとしながらも、しっかりと旧陸軍のDNAを受け継いでいるのが陸上自衛隊である。旧陸軍ばりの「けんか上手」は、海・空自衛隊のみならず、本省ですらも一目置くくらいだ。

 防衛省・自衛隊では、本省と統陸海空の4幕僚監部、防衛装備庁も含めた覇権争いが、日々繰り広げられている。

マニア必見!自衛官が厳選する
「最強の武器ランキング」

『週刊ダイヤモンド』8月26日号の第1特集は「自衛隊・防衛ビジネス 本当の実力」です。

 連日のように、北朝鮮のミサイル挑発行動が続いています。北朝鮮に抑止を促してくれるはずの中国こそ、軍事力を増強し海洋進出への意欲をむき出しにしています。かつてないほどに、東アジア情勢が緊迫化しています。

 しかし、日本はといえば、南スーダン国連平和維持活動(PKO)の日報問題がクーデターまがいの騒動に発展、防衛相・防衛省・陸自トップがトリプル辞任する事態になってしまいました。とても有事に備えができているとはいえません。

 本特集では、スキャンダルを繰り返す25万人組織「防衛省・自衛隊」を徹底的に解剖しつつ、日本の防衛力・防衛産業がどのレベルにあるのか、ビジネスの視点も交えて検証しました。

 キラーコンテンツは、「自衛官53人が厳選する「最強の武器ランキング」です。

 現役・OB自衛官の皆さん一人一人に、「海外へ売れる武器」「売れない武器」「(日本の自衛隊が)欲しい武器」について聞いて回りました。

 足で稼いだ取材結果は、なかなかシビアなものになりました。注目のランキングは誌面に譲るのですが、日本の安全保障と防衛産業の課題を見事にあぶり出した結果になっていたからです。

 戦後、今ほど日本の安全保障が脅かされたことはありません。日本がいかにして安全保障を確立すべきなのか。イデオロギーに偏り過ぎることもなく、戦争という言葉の響きに思考停止することもなく、冷静、かつオープンな議論が必要な時に来ています。