組織の中で、ヒエラルキーの上位にある上司の顔色を伺ってしまうのは自然な現象である。だが、それはすなわち、チームのメンバーもあなたの些細な言動まで注視していることを意味する。だからこそ、マネジャーを任された時には、意識してチームに目を向けなければならない。そうしなければ、部下の信頼を失い、成果を上げることはできないと筆者は主張する。


 私が初めてマネジャーになった時、新しい職場に来た直後の思いがけない昇進だったので、同僚を差し置いて登用されたという事実に、なんとなく気まずい思いを抱いていた。それでも、担当チームは初めての複雑なプロジェクトを進めていたので、私はそれをうまく処理して上司に好印象を与えたかった。

 とにかく問題はすべて自分で解決しよう、と直感で決めた。誰よりも長時間働き、元同僚に頼みづらい仕事はすべて自分で抱え込んだ。ところが、気がつくと私は不満を感じ、いらだっていた。一人としてチームメンバーがやって来て、「手伝いましょう」と申し出てくれないのだ。もしや、私が失敗するのを、待っている? いや、期待しているとか?

 いまにして思えば、当時の私は新任マネジャーの役回りを全然わかっていなかった。昇進したことをなんとなく申し訳なく思っていたし、リーダーシップをまったくと言っていいほど発揮していなかった。周囲から、特に上司から、自分がどう見られているかばかり気にして、周囲に自分の何を見てほしいかついてはほとんど考えていなかった。幸い、私はすぐに軌道を修正した。

 ほとんどの新任マネジャーにとって皮肉なことは、昇進のきっかけになったスキルや資質が、リーダーとして役立つ能力とは大きく異なることだ。しかも、そのことに自分で気づくよう放置されることがほとんどだ。私の時もそうだった。そして、必ずしもよい結果は出ない。

 急成長しているウーバーのようなスタートアップで働く新任マネジャーのうち、いったい何人が、権限のある地位に就く以前に管理職の経験やトレーニングを積んできたのだろうか。ハーバード・ビジネス・スクールのフランシス・フライ教授は最近、ウーバーの求めに応じて同社のリーダーシップとセクハラに関するスキャンダルを乗り越える手助けすることにした。即座に結論を出すのなら、「ウーバーの管理職は質が低い」ということになると、同教授は指摘する。

 だが、彼女がMarketplace®(https://www.marketplace.org/)で語った話によれば、実際には、同社のマネジャーたちは必要なトレーニングを一切受けていなかった。「会社がマネジャーにリーダーシップ研修を提供していなかったことが判明しています」と、同教授は言う。「したがって、成功した会社のマネジャーになる準備もできていなかったのです」

 スタンフォード大学エンジニアリング・スクールのロバート・サットン教授(代表的な著書に『マル上司、バツ上司』、近著にThe Asshole Survival Guide〈未訳〉がある)によれば、新任マネジャーにとって難しいのは、どこに自分の注意を向けるかだ。「自然な成り行きとして、上を向きます。ヒエラルキーの上方に向けられるのです」とサットンは指摘する。

 この現象は自然界でも起きる。たとえば平均的なヒヒは、およそ30秒ごとに群れを支配するボスを見上げて、その行動を確認する。我々人間も昇進時に同じことをする。上司がこちらに目を向けて認めてくれていることを確認しようと、常に顔色をうかがっているのだ。ということはつまり、部下にはそれほど注意を向けていないことになる。

 そして、元同僚たちは当然ながら、これまで以上にこちらを注視している。雰囲気や表情は何を示唆しているのか。以前よりも、しばしばデスクを離れるようになっているのではないか。何に以前より時間を使うようになったか。以前よりも愛想がよくなっているか、それとも悪くなっているか。新たなヒエラルキーで注目株は誰で、誰が脱落するのか。

 サットンによれば、ほとんどの新任マネジャーの問題は、この「注意の非対称性」にある。自分を昇進させたのは(あるいは雇用したのは)間違っていなかったと上司に思ってもらいたいあまり、意図せず部下のことをなおざりにしてしまうおそれがある。

 では、新しい部下たちが寄りつかずに崩壊していくパターンに陥る前に、どうすべきなのか。