もし日本が農産物の輸出大国だったら、今の円高はさほど問題視されないだろう。20年前の1991年8月末のドル円レートは、136.85円だった。今年8月末は76.5円なので、円は44%上昇した。しかし、米国の小売り価格において、牛肉・羊肉はこの20年で89%上昇している。コーヒーも98%、ジャガイモはなんと140%上昇だ。

 米国の消費者物価指数全体はこの20年に66%も上昇した。そのうち、非耐久財価格は+70%、サービス価格は+81%だ。日本の消費者物価指数は20年間で+2%だから、ほぼ横ばいである。8月27日号でも述べたように、米国で売られている日本製品が、現地のインフレに沿って値上げされてきたなら、為替レートは大幅な円高になっていても、日本の輸出企業は赤字にならないはずだ。

 ところが、日本の製造業が勝負している耐久消費財は、米国では20年で▲2%というデフレだ。特にテレビは91%の下落である。日本を含む東アジアのメーカーは泥沼の価格競争に陥っている。

 今回の円高によって、企業の規模を問わず、多くの日本の製造業が生産拠点を海外に移転することを決断あるいは検討している。しかし、海外に移転しても、消費者を魅了する付加価値の高い商品を作ることができなければ、品質面の差がより小さくなっていく韓国・台湾・中国メーカーとの価格競争は果てしなく続くだろう。