米国経済の抱える問題として、失業率の高止まりがあるのは、よく知られていることだ。だが、実際に一般の人びとがどういう状況に置かれているかは、日本では見えてこない。現実は、おそらく多くの日本人の想像をはるかに超えて厳しい。現地からのレポートをお送りする。(取材・文/ジャーナリスト 長野美穂)

 カリフォルニア州、ロサンゼルスのマリーナ。ピーカンの青空の下、そよそよとヤシの木が揺れ、ヨットの白い帆がまぶしく波間に光る。

 そんな天国のような景色の片隅に、州の失業保険の茶色の事務所がひっそりと建っている。その駐車場では、天国にはほど遠い光景が展開されていた。

「失業保険が4ヵ月経っても支払われていないんだ。何回電話しても、録音された声が流れるだけで、生きた人間につながらないんだよ!」 

 日焼けした顔を真っ赤にして怒っているのは、メンテナンス業を専門とするロベルト・レイノソ、40代だ。 

 玩具メーカーのメンテナンスの仕事をしていた彼が、リストラを言い渡されたのは数ヵ月前だった。

 給料6ヵ月分の退職金を受け取り、即クビになるか、パートタイムで契約として働き続けるかの選択を迫られ、やむなく週20時間勤務のパートタイムで働くことを選択した。職探しをする間、州から一部出る失業保険を当てにしていたのに、書類を送っても、4ヵ月間音沙汰なし。とうとうしびれを切らして事務所に乗り込んできたのだ。

 リストラ前は、2階建ての大きなビルのメンテナンスを一日中ひとりで仕切っていたという。

「メンテナンスの需要は、今どの業界でも高いんだ。だけど不況で、機械が多少壊れても、使い続ける企業が増えてるだろ。だから、仕事が減ってるわけ。子どもだっているのに、これじゃ食べていけないよ」

 彼の後から失業保険事務所を出てきた作業着姿の男性に向かって、ロベルトが叫んだ。

「おーい。どうだった? 担当者と無事に話せたかい?」

「それがさ、コンピュータで先に登録しろって。俺、自宅にパソコンないんだよ。インターネットアクセスがないと失業保険すらもらえないって。進化できずに死んでいく恐竜にでもなった気持ちだよ」

 その日は折しも、オバマ大統領が全米に「アメリカに再び職を」の演説を大きくぶちあげた翌日だった。