iPhone5ではなかった!

 「で、結局KDDIから、iPhoneは出るんですか?」

 この2週間あまり、とにかくこの問い合わせが相次いだ。メディアの取材という形でご依頼いただいたものもあれば、通常のコンサルティングやアドバイザー業務の打合せでも、時候のあいさつ代わりとなっていた。

 私自身は、こうしたお問い合わせへの回答は、すべてお断りしてきた。というのも、あれだけ報道管制の厳しいアップルが、事業パートナーといえども他社による大幅な先行発表を、許すはずがない。ならば、当事者以外の誰かがしたり顔で何かを言ったところで、流言飛語の域を出ることはないからだ。

 アップルに関しては、当事者が第三者に口を滑らせたことが、ご破算の引き金となった事例もいくつかあり、業界関係者の不用意な発言は、当事者の事業機会を損なうことにつながる。今回も、各社の報道が相次いだことで、ソフトバンクモバイル(以下SBM)とKDDIの株価は乱高下した。当事者の心理を忖度するに、同情の念を禁じ得ない。

 そして着地は、すでに日本時間10月5日未明の、アップルの発表通り。当初はiPhone5と報道されていたが、今回投入されるのは、現行機種のマイナーチェンジ版と「一応」位置づけられたiPhone4Sとなり、これをSBMとKDDIが扱うこととなった。

 事前に噂されていたiPhone5の投入がなかったことについては、あくまで噂が先行しただけと考えるのが、まずは素直な解釈となろう。ジョブズ氏引退に伴う「政権交代」直後であること、iPhone4投入時に無線通信技術でトラブルを抱えていたことを考えれば、すでに世界的な影響力の大きいiPhoneの新型機種投入に伴うリスクに、アップル自身が慎重になるのは、自然なことでもある。

 ただし、あくまで仮説だが、このところ世界中で知財係争を繰り広げていることの影響の余波が、あったのかもしれない。特にAndroid陣営の先鋒となっているサムスンは、iPhoneの新型投入に合わせて同機の販売差し止め訴訟に踏み切るかもしれないという噂話も、あちこちで聞こえる。ならば、すでに販売実績のあるiPhone4のアップデートで、こうした措置をかわそうとしたのかもしれない。

 先日もサムスンが、同社のAndroid端末販売に際し、マイクロソフトへの特許使用料を支払うことが明らかになった。このあたり、アップル、Google陣営、マイクロソフト等のフロント・プレイヤーだけでなく、通信業界、セミコン業界、コンテンツ業界等を巻き込んだ、非常に複雑な戦いが続いている。すでにこれ自体が、事業者にとってはリスクが高まっている状況と言えよう。