橘玲の世界投資見聞録 2017年9月28日

ヨーロッパの若い女性がISに渡ろうとする理由とその末路
[橘玲の世界投資見聞録]

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初対面で「メロディー」はISの大物ジハーディストにプロポーズされた

 アンナ・エレルの『ジハーディストのベールをかぶった私』は、フランス人の女性ジャーナリストが「アッラーの地」に憧れる若い(白人)女性に扮し、インターネット上でIS幹部との接触を試みた稀有な記録だ。

 エレルは、自分の息子をシリアから取り戻したことで一躍有名になったベルギー特殊部隊の元軍人の本をまとめる過程でこんな疑問を抱いた。

 「たった数週間で、二度と元の生活には戻らないという確信とともに、すべてを捨てる。それまでの過去も家族も。そしてまったく新しい人生を歩もうとする。そんな若者たちは、どんなふうにプロパガンダの罠にはまるのか」

 そこでエレルは、「メロディー」というバーチャルな人格をつくってIS関係者のSNSの投稿に「いいね」をつけてみた。「メロディー」はもうすぐ20歳で、トゥールーズの母子家庭で暮らす、イスラームに改宗した金髪の白人女性だ。

 するとさっそく、「メロディー」宛にショートメールが届いた。

 「こんにちは(サラーム・アレイクム)。俺のビデオ見てくれたんだね。これ、世界中の人が見てくれて、驚いてるんだ! 君、イスラム教徒だよね?」

 男は、「アブ・ビレル」と名乗るフランス人のジハード戦士だった。ビレルはスカイプへの招待とともに、自分の写真を送ってきた。頭からつま先まで全身武装し、肩にM4型突撃銃を斜めにかけ、額にはアラビア語の文字が書かれた黒字に白の鉢巻を巻き、厚い胸板を突き出して笑顔でまっすぐ立っていた。

 ビレルは仲間から「アミール」と呼ばれていた。気骨、武力、教義など「イスラームの徳」が評価された証で、ISではもっとも権威ある称号のひとつだ。

 その後、「ISの広報担当」と呼ばれるフランス人がビレルをこう評した。 

「彼(ビレル)はアミールで、何といっても、フランス人戦闘員としてアブ・バクル・アル・バグダティに最も近い存在なんだ」

 いうまでもなく、バグダティは「イスラム国」の最高位であるカリフだ。ビレルはそのバグダティの側近だという。「メロディー」はいきなり大物を釣り上げたのだ。

 はじめてのスカイプでのビデオ通話のとき、ベールを被り目だけを出した「メロディー」と、“イスラム国の首都”ラッカのインターネットカフェにいるビレルのあいだで、現実離れした会話が交わされた。

「何の仕事をしているのか、聞いてもいい?」
「仕事は人を殺すことだよ」
「人を殺すのが仕事なの? 本当にそれが仕事なの?」
「決まってるじゃないか! 当然だよ! 俺、毎日すごく働いてるだぜ! ここはクラブメッドのバカンス村じゃないんだからさ」
「不信心者を殺すってこと?」
「そうさ。それに裏切り者も、イスラムの世界征服を邪魔する奴は誰でもね」

 そしていきなり、ビレルはいった。

「君はこっちで重要な人間になるんだ。俺と結婚してくれたら、王妃みたいな暮らしをさせてあげられるよ」

 初対面で、「メロディー」はISの大物ジハーディストにプロポーズされたのだ。

ISのヨーロッパ出身幹部はなぜフランス人の若い金髪女性と結婚したがるのか

 ISの幹部らしきビレルは、なぜフランス人の若い金髪女性と結婚したがるのか。その理由を、同じくシリアに渡ったアブ・ムスタファという27歳のフランス人が解説している。

「シリアの女性は外国人のジハード戦士をばかにしてるんだ。イスラム国を恐れてるからね。僕たちだって、彼らのあの間違った教義とは相容れない! だいたい彼女たちは、君たちヨーロッパの女性のようにシャリーアに従おうともしない。シタルも着ないで、小さなヒジャブだけですませてる!」

 ISにとって“貴重品”であるフランス人男性は、地元のシリア女性と優先的に結婚することができるが、その夫婦生活は満足のいくものではないらしい。

「僕はフランスで育ったけれど、彼女たちはここで育ってる。カルチャー・ギャップが大きすぎるんだ。僕たちの西欧の習慣と彼女たちの閉鎖的な考え方は、全然わかり合えるところがない。だから、君みたいな人と結婚できれば、完璧な人生になるだろうな」

 このように(ビレルと比べればはるかに理性的な)ムスタファも、「メロディー」との結婚願望を口にした。

 その「メロディー」に結婚を迫るビレルの行動は徐々に常軌を逸してきた。彼は毎朝6時に起きると、「メロディー」に短いメッセージを送る。

 おはよう、かわいいベイビー、俺のことを思っていてくれ。会いたい。

 そのあとに赤のハートの絵文字がたくさんついている。

 その後は武器と、好物のココアの小さな瓶を何本も積み込んだ装甲小型トラックで300キロを毎朝「出勤」する。ビレルはイラクとの国境に近いIS統制下のデリゾールで「警察活動」をしているという。

 「仕事」から戻ると、シリア時間の午後7時にはラッカのさびれたインターネットカフェのパソコンの前で「メロディー」を待っている。ビレルもまた、「ヨーロッパの白人女性」を熱烈に求めていた。「メロディー」は若く金髪で、おまけに「改宗者」だ。ビレルはいう。

 君たち改宗者は、戒律に対してより厳格なのに、人生に対してはより開けている。シリアの不信心者のように、体を覆うことだけで満足して男を幸せにすることを知らないのとは違う。(略)
 君は夫と二人だけのときには、やりたいことは何でもできる。君のすべては夫のおかげ、夫のおかげだ。だから、夫の願いは何でも聞き入れなければいけない。シタルとブルカの下に何でも好きなものを着るといい。ガーターベルトとか網タイツとか夫が喜ぶものなら何でも。きれいな下着は好きかい? ベイビー。

 
 IS幹部であるビレルもまた、シリアでの性生活にまったく満足できなかったのだ。


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橘 玲(Tachibana Akira) 作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『(日本人)』(幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』(ダイヤモンド社)など。
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