「火事と喧嘩は江戸の華」。実は、華に例えられたのは火事ではなく火消。もっと正確にいうと「町火消」である。

 江戸の消防組織のうち、「大名火消」の主役は大名に雇われた足軽や中間(ちゅうげん)。幕府直轄の「定火消」は、臥煙(がえん)と呼ばれるプロの職業集団だ。

 これらに対して「町火消」は、町人が無報酬で命を張った。町火消のボランティア精神を今に受け継ぐのが消防団だ。構成員は普通の市民。商店主もいれば、サラリーマンもいる。最近は、女性の参加も増えている。

火事と喧嘩は江戸の華――。
江戸の防災体制を受け継ぐ消防団

 消防団は、自治体の条例に基づいて設置される。たとえば、大阪市には消防団がない。だが東京では、地域防災の担い手として、なくてはならない存在だ。

 面積1km2当たりの消防団員数は、23区の平均が25人。台東区はその2倍以上の55人となる。消防団員が、どの区よりも高密度に街を見守っている。ちなみに台東区は、面積当たりの消火栓数も1位、防火水槽の数は3位だ。消防ネットワークの整備水準が高い。

台東区――「火事の本場」は、町火消の心意気を今も受け継ぐ防災コミュニティ

 その裏には、出火リスクの高さがある。建物密度1位、平均敷地面積23位、ネットの建ぺい率2位という土地柄ならではだ。小さな建物が建て込んだ様子が、データから伝わってくる。その一方で、不燃化率8位、道路率2位、平均道路幅員5位と、延焼遮断の都市構造は評価が高い。

 また、面積当たりの火災発生件数1位、同建物火災発生件数2位に対して、1火災当たりの焼損棟数14位、火災100件当たりの死傷者数19位。これらの数値に、出火のリスクは高いものの、延焼には比較的強い台東区の特徴がよく表われている。