欧州の銀行がいっせいに資本増強を迫られることになりそうだ。欧州首脳が7月に想定していたギリシャ政府の債務元本の削減を、大幅に拡大する方向で検討を始めたからだ。銀行の経営悪化が金融システム危機へと波及することを防ぐのが狙いだが、これには大きな副作用と矛盾が伴う。 

ギリシャ債務元本削減で<br />欧州61行が資本不足の衝撃ドイツ銀のアッカーマンCEO(左)は銀行の資本注入に反論、メルケル独首相(右)を牽制した
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「問題は銀行の資本不足ではない。強制的な増資も必要ない」

 ドイツ金融最大手、ドイツ銀行のアッカーマンCEOが、このところ銀行の資本不足をにおわしている欧州当局の姿勢に噛み付いた。10月13日、ベルリンで開かれた講演でのことだ。

 その数日前の9日、メルケル独首相とサルコジ仏大統領は、銀行の資本増強の実施で合意していた。翌日には、ギリシャやイタリアの国債を大量に保有するフランス・ベルギー系金融大手のデクシアが、資金繰り懸念から一部国有化される事態に陥る。欧州債務危機下における初の金融機関の“経営破綻”となった。

 これを受けて欧州連合(EU)のバローゾ委員長も12日、「EU域内の銀行には包括的な資本増強が必要」との見解を表明した。

 さらに17日には、ショイブレ独財務相が具体的な要求水準にまで言及。7月に欧州銀90行に対して実施された健全性テストでは、普通株などによって構成される質の高い自己資本の比率(コアTier1比率)で5%を合否判定の基準としていた。それを今回は、9%にまで大幅に引き上げるとの構想をぶち上げたのだ。 

ギリシャ債務元本削減で<br />欧州61行が資本不足の衝撃

 週刊ダイヤモンドの調査によれば、9%に満たない欧州銀はじつに61行、資本不足は総額2126億ユーロにも及ぶ(上表参照)。前回の不合格が8行にとどまったことを鑑みれば、はるかに厳しい結果だ。前回は合格だったドイツ銀行も不合格に転落、33億ユーロ(約3480億円)もの資本増強が必要となる。こうした懸念を背景に、アッカーマンCEOも強く反発したというわけだ。