欧州きっての知日派で『日はまた昇る』の筆者ビル・エモット氏に、鳩山政権の経済運営に関する評価を聞いた。アジア重視の鳩山外交に対する前回の前向きな見解からは一転して、今回は手厳しい批判の言葉が相次いだ。(聞き手/ダイヤモンド・オンライン副編集長、麻生祐司)

ビル・エモット
Bill Emmott(ビル・エモット)
1956年8月英国生まれ。オックスフォード大学モードリン・カレッジで政治学、哲学、経済学の優等学位を取得。その後、英国の高級週刊紙「The Economist(エコノミスト)」に入社、東京支局長などを経て、1993年から2006年まで編集長を務めた。在任中に、同紙の部数は50万部から100万部に倍増。1990年の著書『日はまた沈む ジャパン・パワーの限界』(草思社)は、日本のバブル崩壊を予測し、ベストセラーとなった。『日はまた昇る 日本のこれからの15年』(草思社)、『日本の選択』(共著、講談社インターナショナル)、『アジア三国志 中国・インド・日本の大戦略』(日本経済新聞出版社)など著書多数。現在は、フリーの国際ジャーナリストとして活躍中。
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―あなたは、総選挙前のインタビューで、自民党から民主党への政権交代を機に、改革のモメンタムが戻ることへの期待を語っていたが、発足から2か月を経た鳩山政権の経済運営に対して、どのような評価を下しているのか。

 率直に言って、変化のモメンタムをうんぬんする以前に、四方八方に発せられるバラバラなシグナルに晒されて、鳩山政権が目指す経済運営の“ディレクション(方向性)”そのものを掴みかねている。

 (10月26日に行われた)鳩山首相の所信表明演説には、既得権益を突き崩し所得の再配分を目指すといった評価できる点は確かにあるが、日本にとって長年の命題であるサービスセクターにおける規制緩和の促進などの具体策はその後いくら待てども出てこない。「まだ2カ月目だから」という言い訳は、目下の厳しい経済状況を考えれば、あまりに悠長すぎるというものだろう。

 しかも、そうこうしているうちに、旧自民党政権の“オールドポリティクス”復活を思わせる出来事が相次いでいる。あくまで現時点での評価だが、日本を長年見てきたアウトサイダーとして、今回は何かが違うと思っていただけに、はっきり言って、残念な展開だ。

―オールドポリティクスを彷彿させる出来事とは具体的に何か。

 たとえば、モラトリアム法案(11月20日に衆院で強行採決された、金融機関に借金の返済猶予を促す「中小企業等金融円滑化法案」)であり、三井住友銀行出身の西川善文氏を事実上更迭し、元大蔵省事務次官の斎藤次郎氏を後任に就けた日本郵政の社長人事に象徴される郵政改革の大転換だ。