『週刊ダイヤモンド』10月28日号の第一特集は「損しないマンション×戸建て×中古リノベ」です。今年度上半期の新築マンション市場において、首都圏の供給戸数は1992年度以来の低水準。平均販売価格は過去26年度で最も高い価格となりました。もう一つのマイホームの主役、戸建て市場も大都市の住宅地に地価暴落を招きかねない“時限爆弾”を抱えています。五輪後のマンション市場はどうなるのでしょうか? はたまた戸建て価格の大暴落は起きるのでしょうか? 先の読めない時代の住まいの選び方をお伝えします。

新築マンションが首都圏で
まったくといっていいほど売れていない

「東京23区内の一部ではすでに価格調整(値下げ)に入った」──。

 今月中旬、不動産経済研究所が2017年度上半期(4~9月)の首都圏の新築マンション市場動向を発表した。

 その数は1万6133戸。これは上半期としては、バブル崩壊直後の1992年度以来、四半世紀ぶりの低水準だ。片や、その平均販売価格はなんと5993万円。前年同期から332万円の“爆上げ”となり、こちらは91年度以来の高値を付けた。契約率は好調とされる70%ラインを下回る68.6%にとどまっている。

 つまり、いま新築マンションがその最大市場でまったくといっていいほど売れていないのだ。

 ただし、“本丸”たる東京23区だけは、話が真逆。供給戸数はむしろ15.9%増、平均販売価格は7160万円と一般の実需レベルをはるかに超える高騰にもかかわらず、契約率は70%を超えてきた。15年から続く東京都心の“局地バブル”を象徴する数字だ。

 ところが、だ。同研究所が冒頭のごとく指摘するように、15年ごろから東京都心や城南エリア、川崎の武蔵小杉などで発生した“局地バブル”にもここにきて崩壊の兆しが見え始めている。

「本当に買っていただけるなら、強気の希望価格を言ってください! その方が上にも通しやすいので」――。

 マンション供給戸数トップの住友不動産。同社はいくら完成在庫(売れ残り)を抱えても値引きしない強気の販売姿勢で知られる。ところが今秋、同社が手掛ける23区内の某新築マンションでは、そんな営業トークが飛び交った。

 同社は建前の上では販売価格は下げられない。そこで諸費用などで調整する“事実上”の値引きを行うわけだ。同じエリアで完成在庫を抱える他のデベロッパーは推して図るべし。23区内の新築マンションでさえも、明暗が分かれ始めているのだ。

中古マンションにも異変
戸建ては“時限爆弾”抱える

 一方、昨年に史上初めて、新築マンションの供給戸数を成約戸数で上回り、マンション市場の主役の座を奪った中古マンション。高騰する新築マンションを買えない消費者の受け皿となり、価格も新築に引きずられて上昇していたが、こちらにも異変が起きている。

 首都圏の中古マンション価格は、昨年11月ごろから3500万円台(70平方メートル換算価格)でほぼ頭打ちになり、その成約戸数と新規登録された売り物件の戸数の差は目下、拡大を続けている。つまりは中古マンションにも、買い手が付きにくくなっているわけだ。

 そして、郊外を主戦場に急成長している戸建ても“時限爆弾”を抱えている。その爆弾の名は「生産緑地」。東京23区外周部や大阪市、名古屋市といった都市部に点在し、固定資産税などで優遇する代わりに30年間の営農義務を課した農地をいう。

 その8割が指定を受けたのは、92年のこと。つまり今から5年後の22年、生産緑地の大半が一斉に営農義務の期限を迎え、自治体への買い取り申し出が可能になる。そうなれば大量の農地が宅地転用され、住宅の需給バランスを一気に崩壊させるのでは、という議論が今、巻き起こっている。いわゆる、「2022年問題」だ。

 国も今年、対策に乗り出してはいる。だが、爆発までの残り時間は5年。その威力は都市部の戸建て市場を混沌に突き落とすのか、それとも不発に終わるのか、様々な予測が飛び交うが、本当のところは誰にも分からない。

買うべき、買ってはいけない
中古マンションランキング

 不動産市場はマンション、戸建て共にその選び方が難しい局面を迎えている。一つ言えるのは、もはや一般消費者に手が届く物件が、金のなる木となることはなさそうだということ。今後の住まい選びでは、少なくとも“損しない”物件選びができるかどうかが問われてくる。

 例えば、マンション市場の新主役、中古マンション。マンションは新築を含めて、その「資産価値」と「居住価値」という2つの価値を見極める必要がある。

 そこで全国の分譲マンション11万棟、350万件の取引データを持つ、不動産情報サイト、マンションマーケット(https://mansion-market.com/)の協力を得て、「市場流通率」と「価格上昇率」に基づいた「買うべき、買ってはいけない、中古マンションランキング」を作成。そこから一部抜粋したのが次の画像だ。

※2000年以降に建てられた分譲マンションのうち、総戸数が100戸以上で、一定数以上の成約件数があった物件を抽出
拡大する

 流通率と上昇率を組み合わせてみることで、その物件の特徴が見えてくる。

【流通率:高/上昇率:高】

「資産価値」は高いが「居住価値」が低い物件と言える。実需ではなく投資向き。東京都で唯一の流通率10%超となった、「ザ コノエ代官山」はその典型だ。

 東急東横線代官山駅徒歩1分という久々の代官山エリアの駅近新築マンションで、立地は抜群だが、分譲時の平均坪単価は630万円と言われ、さらにデベロッパーがアパグループであったことから、購入をちゅうちょした投資家もいたという。

 だが、ふたを開けてみれば、専有面積にバリエーションを持たせたアパの販売戦略も見事にはまり、2016年竣工と、既に新築マーケットが高騰し、中古価格が上昇しにくい時期だったにもかかわらず上昇率は123%となっている。

 常に総戸数の1割以上が販売中のため、購入後の即転売による売却益目的が、流通の大半を占めていると推測できる。

【流通率:高/上昇率:低】

「資産価値」「居住価値」共に低い物件で、買うのはなるべく避けたい物件と言える。典型は、東京都の流通率2位、ザ パークハウス晴海タワーズティアロレジデンス。隣接する13年竣工のクロノレジデンスから3年遅れて竣工した、三菱地所旧分譲のツインタワーの片割れだ。

 クロノレジデンスの方は分譲時価格が安価だったこともあり、3年前から若干の値上がりを見せているが、勝どきエリアのマンション供給過剰と、新築市場の価格上昇のど真ん中に分譲されたティアロレジデンスの方は、上昇率が100%を割っている。

 また、同物件は、エリア全体の供給過剰から中古市場では苦戦中とされ、流通率が高い一因となっている(なかなか成約しないので、売れ残り物件が積み上がるため)。

【流通率:低/上昇率:高】

「資産価値」「居住価値」が共に高い物件。予算が合うなら購入すべきだ。例えば、流通率が低くランキング外だが、プレイス白金ブライトレジデンス(東京都港区)は、3年前の相場から約130%増という高い価格上昇となっている。片や、流通率は総戸数221戸に対し、月平均の売り出しが1件(流通率0.49%)と非常に低い。

 価格だけで言えば間違いなく“売り時”だが、複合施設の白金アエルシティに隣接し、東京メトロ白金高輪駅徒歩2分という抜群の立地から、自宅用として住民の満足度が極めて高いため、市場に出回り難いといえる。

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資産価値が下がりにくい住居

『週刊ダイヤモンド』10月28号の第一特集は「損しないマンション×戸建て×中古リノベ」です。

 値上がりを続ける新築・中古マンション、立地や建物の工法などが千差万別な戸建て、そして、人気のリノベーションの4本柱で、混迷するマイホームの選び方をお伝えします。

 また、前述のような独自ランキングに加えて、戸建てとマンションの「総住居費比較シミュレーション」や、経済変動リスクから見た「戸建て将来推定価格シミュレーション」などデータも多数盛り込みました。

 悩める住まい選びの一助になれば幸いです。