陥りがちな思考の罠に迫る「カイゼン!思考力」。今回は、「事例証拠の誤用」を取り上げる。

――問題です

 以下のベンチャー経営者Aさんの問題は何か。

A「さて、今回の意思決定だが、なかなか悩ましいところだ。M案で行くか、N案で行くか。

 M案の場合、たしかにリスクは少ないし、従業員やパートナー企業の同意も得やすいだろう。ただ、長い目で見たときに競争に勝てる戦略なのかはやや自信がない。

 一方のN案だが、こちらは、成功すれば今の地位を強固なものにできるが、従業員やパートナー企業からの反発は必至だ。顧客の中にも、離れていってしまう人々はいるだろう。

 両者の折衷案もあるが、それはかえって虻蜂(あぶはち)取らずになってしまいそうな気がする。まてよ、そういえば、作家だった私の父親は『迷ったら、困難な道を行く方が、結果として良い結果が出ると信じる』と言っていたと、父の友人だった編集者のXさんはよく私に語ってくれた。父は早世してしまったので、直接父から聞いたわけではないが、Xさんの言うことだから本当なんだろう。道は違えども、親父の言葉には重みがある。よしここはN案で行こう」