ヴェネツィア国際映画祭のメイン会場で上映された、ドキュメンタリー映画『Ryuichi Sakamoto:CODA』が大喝采を受けたという。世界中から訪れた人々は、坂本龍一さんの生き方に興味を抱き、その生き様に共感を覚えたのだろう。このページでは、そんな坂本さんのライフスタイルに焦点をあて、お話をうかがった。

写真=田島一成  スタイリング=山本康一郎 グルーミング=YOBOON 撮影協力=パーク ハイアット 東京

まず身体や健康を考え、それが環境問題へ繋がった

─今年は、8年ぶりのソロ・アルバム『async』が発表されました。中咽頭ガンの治療を経てのいわば復活作だけに大きな注目を集めましたね。

 病気になる前から、同世代の一般の男性よりは食べ物や健康に気を使ったライフスタイルになっていたと思います。

 知識もあったつもりなのに、いざガンという病気になってみるとやはり、ライフスタイルの”ライフ”という意味ががらりと変わってしまった。”ライフ”がそのまま生き死にの問題になってしまって、言葉の重さもちがってくる。

 もともと身体が丈夫で大きな病気の経験もないし、その上でこれだけ健康に気を使っているのだから、病気が発覚したときは信じがたい気持ちでした。

 前兆のような症状があったときも、いや、自分は健康なはずだから重大な病気であるはずがないという思い込みがあった。そういう意味では自分の身体や健康的なライフスタイルへの過信が逆効果だったのかもしれないという思いはあります。

 自覚症状があったのに、ほったらかしておいた。健康への関心が高かろうが低かろうが、病気になるときはなるんだといういい教訓でした。

 

INTERVIEW WITH RYUICHI SAKAMOTO【前編】<br />ライフスタイルの“ライフ”という意味ががらりと変わってしまった坂本龍一 1978年デビュー。ソロ、YMOの他、アカデミー賞を受賞した『ラストエンペラー』など多くの映画音楽も制作。近年は音楽活動のほか札幌国際芸術祭2014でゲスト・ ディレクターを務めるなど現代美術にも深く関わる。中咽頭ガンを乗り越えて8年ぶりのアルバム『async』を本年発表した。

 

─坂本さんが、健康に気を使うライフスタイルとなったきっかけはなんだったのでしょうか?

 40歳を過ぎて老化の自覚が出てきて身体や健康のことを考えるようになり、それがそのまま環境問題へ繋がっていった。

 自分の飲む水、吸ってる空気、食べ物はすべて環境に関係することで、地続き。自分が大事だから環境も大事という、非常にエゴイスティックな動機でした。昔はよくエコはエゴだと言っていました(笑)。

─健康と環境問題は不可分?

 そう。環境とは外部にあるものだけでなく、人それぞれの身体という内部もまた環境なんです。周囲の人工物の中で、身体だけが丸ごとの自然。その身体に入る空気や水や食物は、自然の産物を自然である身体に取り入れてまた排出するという自然の循環なんです。

─病気の治療のために、もともと健康的だったライフスタイルをさらに見直したそうですが。

 そんなに変わらないのだけど、いちばん大きいのは肉を食べるのをやめたことかな。病気になって最初の一年ぐらいは魚も食べなかったけれど、どうしても鮨は食べたくて(笑)、魚介類は食べることにしました。あと、卵は完全食だから食べるようにと医師から勧められたので治療中から食べていました。