3M日本法人が研磨業界で展開、外資系とは思えない「ベタな浸透作戦」2016年9月、名古屋市周辺で走り始めた「研磨体験カー」(移動式の研磨実演スペース)。17年1月には、新潟県の燕商工会議所が中心となって活動する、研磨業務に従事する地元企業で組織された「磨き屋シンジケート」とも連携するようになった 写真提供:3Mジャパン

 その名も「研援隊」(けんえんたい)。ものづくりの現場で、大小の構造物をガリガリと削ったり、表面をピカピカに磨きあげたりする研磨作業に携わる職人たちを応援するべく、全国に散った研磨の専門家集団である。

 世界的な化学メーカー、米3Mの現地法人である3Mジャパンは、国内の化学メーカーの技術者から「世界で最もイノベーティブな企業の1つ」として、一目も二目も置かれる存在だが、研磨というニッチな世界での、外資系企業とは思えないほどのベタな浸透作戦が話題になっている。

 研磨の現場では、高速で回転するグラインダー(研削盤)という機械を使用する。3Mジャパンは、その先端に取り付ける「切断砥石」の圧倒的な性能の高さ、そして先行する国内の砥石メーカーとは異なる営業支援活動により、静かに日本のものづくりの現場を席巻している――。

 その秘密は、2010年に米3Mが自社開発した切断砥石の性能にある。独自技術で開発したセラミック製の精密成型砥石は、ナノレベル(10億分の1の単位)の微細砥粒の集合体で、グラインダーに当てて作業する際にも、表面の砥粒が三角形の鋭い形状を維持したままで長く使える。

 片や、一般的に使われているセラミック製の砥石は、少しずつ切っ先が摩耗して、全体的に丸くなりながら消耗する。構造物を削ったり磨いたりする砥粒が丸くなれば、目詰まりも起こりやすい。作業の効率は落ちるし、断面が丸くなればそれまで以上に体力を要する重労働になる。

 特許の縛りから、国内最大の高級陶磁器・砥石メーカーのノリタケカンパニーリミテドなどは、米3Mと同種の製品を作れない。12年から本格的に導入した3Mジャパンは、新型砥石を武器にして過去3年間でビジネスの規模を4倍に増やした。研援隊は、今やライバルメーカーが視察に来るほど無視できない存在なのである。