世界各地で反格差の動きが高まる中、今回は心の格差が小さい日本社会に注目します。前回のコラム「日本人こそ見直したい、世界が恋する日本の美徳」で、世界の人々が「いいね!」とボタンを押す日本人特有の文化価値観が多くあると指摘しました。枯れ木に花を咲かせ、富と喜びを仲間で分かち、心豊かに暮らす「花咲かじいさん」が生まれた日本、そこで育まれた心の格差の小ささは、ますます混沌が深まり人間関係が殺伐とする社会の中で生きる世界の人々の心の乾きを癒し、社会に温もりを与える日本の美徳の一つなのです。

「和を尊ぶ日本人の格差や
金に対する価値観を知りたい」

 リーマンショックから1年経った2009年秋、「日本人とお金~個人主義と集団主義社会からの視点」と題するシンポジウムの中で講演を頼まれました。これは、毎年フランス北部リール市で毎年開催される「世界経済フォーラム・リール」で企画された約20のシンポジウムのうちの一つです。このフォーラムは、世界的な経済・社会・政治問題について毎年メインテーマを定め、複数のシンポジウムを企画、そこで世界各地から集まる専門家による講演や関係者間の議論を行うものです。

 2009年度のメインテーマは、「金と責任~マネーが世界を動かすのか?金融危機は世界を悲惨な結末に導くのか?」というものでした。金融市場の暴走によりアメリカはもとより、世界を巻き込んだ格差拡大と世界同時不況。金に対する強欲のコントロールが効かなくなる人達を放任(レッセフェール=仏:laissez-faire)した秩序なき市場原理主義を問いただすと同時に、世界の見通しについて議論するという主旨です。

 ここでなぜ、日本にフォーカスしたシンポジウムが企画されたのか?主催者から返ってきた答えは、「世界で反格差の声が高まっている。日本は、グローバル資本主義経済の枠組みに深く組み込まれているにもかかわらず、格差が相対的に小さいと聞く。個人主義を是とする欧米人とは違い、集団の和を尊ぶとされる日本人の、格差や金を対する価値観に関心が集まっている。このあたりを話してほしい」というのです。