「長生きリスク」に備える年金保険、商品化が難しかったワケ商品開発を担った大菅聡和・商品開発部商品開発G課長補佐(右)と保険数理の専門家であるアクチュアリーの小松啓伸・商品開発部数理G課長補佐。 Photo by Masaki Nakamura

「まさかこういった商品を御社が作るとは思いませんでしたよ!」

 2016年4月、生命保険業界のガリバーこと日本生命保険が、長生きリスクに備えた新型の年金保険「グランエイジ」を発売し、生保業界の度肝を抜いた。理由は、生保業界で初めて「トンチン性」を組み込んだことに加え、加入時に終身年金を選べることだ。

 まず、トンチン性を組み込んだ年金保険とは何か。簡単に言うと、加入者が早くに亡くなった場合、受け取る年金や死亡払戻金は支払った保険料を大きく下回るが、その分だけ長生きした他の加入者の年金原資が増える仕組みだ。

 なお、このトンチン性の原型である保険制度は、17世紀のイタリア人銀行家であるロレンツォ・トンティが考案したとされ、その名にちなんだものだ。

 これほど古くからある仕組みながら、なぜ今まで保険商品に組み込まれていなかったのか。

 亡くなった人が払い込んだ保険料で、生き残った人が得をするという仕組みに対する懸念もさることながら、「年金保険でありながら、支払った保険料累計額を下回る、すなわち元本割れする年金保険に対する抵抗感が根強くあった」と、日本生命の大菅聡和は言う。

 確かに、通常の年金保険は万が一の際、加入者が支払った保険料(元本)に運用益をプラスした金額が戻ってくる。だが、このグランエイジは先述の通り、年金開始前に亡くなると、支払った保険料累計額の7割しか戻ってこない。

 そうした、いわば“禁断の領域”に日本生命が踏み込んだ理由は、大きく二つある。