人心掌握の基本は、できるだけ嫌われることを避け、好かれることを多くしてやることである。この点に関して、マキャベリは大変に参考になる意見を述べている。

 加害行為は、一気にやってしまわなくてはならない。そうすることによって、人に苦痛を味わわさないようにすれば、それだけ人を怒らせることも少なくてすむのである。これにひきかえ、恩恵は、よりよく人に味わってもらうように、小出しにやらなくてはならない(『君主論』)。

 短くまとめるなら、「怒るときにはまとめて、ほめるときには小出しに」とマキャベリは戒めているわけである。

苦痛を長く
味あわせてはいけない

 怒るときには、中途半端に、ダラダラとやってはいけない。

 そんなことをすると、相手の心の中に“敵意”を引き起こしてしまいかねないからだ。

 小うるさい説教をダラダラとやられたときの苦しさは、だれでも知っている。そういう苦痛を長く味あわせるべきではない。

 精神的な苦痛を味あわせるのならば、いっそのこと、一発だけ頬を張り飛ばして、「これからはもっと頑張れ!」とか「問題の大きさが自覚できるようになれ!」などと怒鳴って終わりにしたほうがいい。

 「どんな理由があっても、手を上げるのは最低である」と考える読者もいるだろうが、筆者などは、正当な理由があって、しかも何発も殴ったり、蹴ったりするのでなく、頬に一発だけ平手打ちを食らわせるくらいは許されるのではないか、と思っている。大きなカミナリを一度落として、その後は、からっと晴天を見せてもいいのではないか。

 子育てをするとき、絶対に子どもを殴ってはいけないと頭から決めつけていると、柔軟なしつけができなくなるのと似ている。