注水中止命令を無視した男

 先月下旬、東京電力福島第1原発の事故発生以来、陣頭指揮を執ってきた、所長の吉田昌郎氏が、急きょ入院し、退任することになったというニュースが流れた。

 吉田氏は、事故発生当初、菅直人前首相や東京電力首脳陣の原発への注水中止命令を無視して、注水を続けたことで男を上げた。

 豪快な性格の人物で、部下と共に一緒に事故現場で暮らし、陣頭指揮に当たり、この人がいたから事故を起こした原発が、なんとか冷温停止に向っていると言われている。最悪の原発事故の中でただ一人、国民の支持が集まっている人物と言っても過言ではないだろう。

 しかし、注水継続を報告していなかったので、国会で菅首相を巻き込んでの大騒ぎとなった。

 菅前首相は、国会で野党から注水中止命令について追及され、注水中止を命じた、命じていないと目もうつろな言い訳に終始し、男を下げた。また東電首脳陣、原子力安全委員会も注水中止命令が事態を悪化させたのではないかと追及され、進退これきわまる状態になっていた。そうしたら突然、東電は「吉田所長が独断で注水を継続していた」と発表したものだから、国民全体が「あれ?」と思った。

 結果として現場を熟知した吉田所長の判断が正しかったということになり、吉田所長は一躍、英雄となった。東電が命令を聞かなかった吉田所長を処分したのかどうかは知らないが、菅前首相は、「吉田所長の判断は正しかった」と、彼の行為を追認することになった。