麻倉怜士のハイレゾ

 評論家・麻倉怜士先生による、今月もぜひ聴いておきたい“ハイレゾ音源”集。おすすめの曲には「特薦」「推薦」のマークもつけています。10月ぶんの優秀録音をお届けしています。e-onkyo musicなどハイレゾ配信サイトをチェックして、ぜひ体験してみてください!!

『ドイツ行進曲集』
ベルリン・フィルハーモニー・ブラスオルケスター
ヘルベルト・フォン・カラヤン

特薦ロゴ

 畏れ多くもあのカラヤン大先生が行進曲を30曲も演奏した、アナログ時代の名盤が、いまDSDマスタリングにて華麗に復活。「旧友」「ウィーンはいつもウィーン」「双頭の鷲の旗の下に」などドイツ・オーストリア行進曲を、ベルリン・フィルブラスと演奏してくれるのだから、まことに襟を正し、鎮座して拝聴だ。ベルリン・フィルはどのパートの誰もがソロ奏者の実力の持ち主。カラヤンが73年に管楽器セクションを振って録音した本アルバムでは、管楽の優秀さが、録音の良さも相俟って、手に取るようにわかる。特にドイツ・グラモフォンのオリジナル・アナログ・マスターからEmil Berliner Studiosにて2017年制作した最新DSDマスターを使用したのでなおさらだ。

 カラヤンの行進曲はシンフォニック。「旧友」はいつもは軽い曲だが、さすがカラヤン+ベルリンフィルは、重厚で豊潤だ。いつも気軽に聴いているピースが、こんなに表情が豊かで、ダイナミックになるのか。「ウィーンはいつもウィーン」は曲本来のしゃれた酒場のウィーン気質的ではなく、ドイツ的なあたりを睥睨するエッジを立てた剛性な大行進曲に変身するのが面白い。「旧友」も素晴らしい。1973年3月、ベルリンのイエス・キリスト教会で録音。

DSF:2.8MHz/1bit
Deutsche Grammophon、e-onkyo music

『マーラー: 交響曲 第9番』
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
ヘルベルト・フォン・カラヤン

特薦ロゴ

 もうひとつの最新カラヤン・ハイレゾが、マーラーの交響曲第9番だ。カラヤンは500曲以上という破格の録音曲数を誇るが、マーラー録音は稀だ。しかし、どれもが超一流のカラヤン節。カラヤンのマーラーとはひとこと「官能的」。豊潤で絢爛豪華、そしてカラフルな響きが、耽美のマーラーを聴かせる。本演奏も、そんなカラヤンの色気演出が最大限に発揮され、しかもDSDの持つグロッシーさと、濃密なマーラー像が互いに絡み合い、リッチに融合する。

今の常識では一般的なマーラー演奏ではないが、あくまでも「カラヤンのマーラー」を、そのままの、むせかえるような艶の響きと熱い官能で聴けるDSD演出の素晴らしさ。 1979年の録音のリマスタリングだが、まるで昨日録ったような新鮮さだ。細部から音が輝き、芳しい香りがリスニングルームを満たす。1979年11月、1980年2月、9月にベルリン・フィルハーモニーで録音。ドイツ・グラモフォンのオリジナル・アナログ・マスターから独Emil Berliner Studiosにて2017年制作の最新DSDマスター。

DSF:2.8MHz/1bit
Deutsche Grammophon、e-onkyo music

『Tchaikovsky: Symphony No.6』
Teodor Currentzis、MusicAeterna

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 「天才か、悪魔か…ギリシャの鬼才が放つロマン派の交響曲!」とは所属レコード会社、ソニー・ミュージックの宣伝文句だが、確かにモーツァルトのオペラ三部作「フィガロ」「コジ」「ドン・ジョヴァンニ」、チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲、ストラヴィンスキー「春の祭典」と出すものすべてが過激で、しかもチャーミング。いま、絶対に見逃せない(missできない)指揮者だ。

 ラディカルなクルレンツィスに掛かるとポピュラーなチャイコフスキー「悲愴」が、まるで昨日作曲された新曲のように聞こえる。リズムがこれほど躍動する悲愴なんて聴いたことがない。「悲愴性」ではなく「舞踏性」が表に打ち出された、実に新鮮な「悲愴」だ。第1楽章第2主題の悲劇的なヨナ抜き旋律が、これほど心を打つとは。大袈裟なアゴーギクや揺らしはないかわりに、透明な深遠さがある。第2楽章の表情の抑揚のレンジの大きさ、第3楽章の生命感の高揚、低減のピッチカートと高弦の揺れ動く音符の対比感。第4楽章の透明な哀しみ。録音は一応優秀だが、全体の響きが優先されている。もっと個々の楽器を解像度高く聴きたかった。2015年2月9-15日、ベルリン、フンクハウス・ベルリン・ナレーパシュトラッセで録音。

FLAC:96kHz/24bit
Sony Classical、e-onkyo music

『Winter Songs』
オラ・イェイロ、Choir Of Royal Holloway、12 Ensemble

特薦ロゴ

 1978年、ノルウェー生まれの作曲家/ピアニスト、オラ・イェイロは合唱シーンでは超有名だ。多くの合唱団で広く歌われている。アルバムは、これまではもっぱらノルウエーの高音質レーベル2LやイギリスのCHANDOSからリリースされていたが、今回はメジャーのDECCAからリリース。格が一段上がった格好だ。本アルバムを貫く基調的な優しさは、北欧のまったりとしたライフスタイル「ヒュッゲ=Hygge」(デンマーク語で「温かな居心地がいい時間や空間」という意味)をオマージュして生まれた音楽だからだ。特に、よく知られたクリスマス・キャロルがHyggeしている。

 1曲目のGjeilo: The Roseコーラスとピアノのコラボ。混声コーラスが厚く、音色がカラフルで、テンションが高い。弦の重層感と相俟って、感情的な高揚を感じることができる。2つのスピーカーの間の深い音場から分厚いサウンドが浮かびあがり、聴き手に迫り来る。10曲目、AWAY IN A MANGER(邦題「飼葉桶の中で」)は有名なクリスマスソング。ハミングのコーラスを背景に、透明感の高いソプラノが歌う場面は、まるで従来リリースしていた2L作品のようだ。15曲目の締めのROSE2は、朗々なチェロとピアノが分厚いサウンドと共にファンタジーの世界に誘う。録音はそんな重層感も明瞭に伝えている。パート・ゴフ(合唱指揮) ロイヤル・ホロウェイ合唱団、2017年6月9‐11日、イギリス、セント・ジュード・オン・ザ・ヒルで録音。

FLAC:96kHz/24bit
Decca、e-onkyo music

『Topographic Drama: Live Across America』
Yes

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 プログレッシヴ・ロックのハイレゾである。「LIVE ACROSS AMERICA」とのタイトル通り、YESが2017年2月に行った全米ツアーのライブ・テイクだ。1980年発表の『DRAMA(邦題: ドラマ)』、1973年発表の『海洋地形学の物語』からのナンバーを中心に収録した。

 1曲目、Machine Messiah。プログレとハイレゾはいったいどんな関係を持つのか、聴くまで半信半疑だったが、意外に(?)良いではないか。プログレ云々する前に、音質水準が高い。解像度が高く、歪みがひじょうに少ない(これはどうなのかとも思うが、少なくとも録音に由来する歪みは皆無)、音像もクリヤーだ。大騒音が聴き手目がけて襲来するという感じではまったくなく、きちんと明瞭に、バランスよく録られた複数の音源が音場中に整然と位置する。ヴォーカルも豊かなボディ感で、質感も良い。最新録音ならではの新鮮さも聴きどころだ。でも、整然としすぎで、あまりプログレっぽくないなあ。

FLAC:44.1kHz/24bit
RHINO、e-onkyo music

『チャイニーズ・バタフライ』
チック・コリア、スティーヴ・ガッド

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 ジャズ/フュージョン界の2大巨人、チック・コリアとスティーヴ・ガッドが組んだスーパー・バンドのデビュー・アルバム。煌めく才能の集合だから、レコーディングではほとんどのトラックが、ファーストテイクでOKだったという。

 1曲目、チックの盟友ジョン・マクラフリンがこのバンドのために提供した「 チックズ・チャムズ」。ノリとキレが抜群にシャープで、息の合ったアンサンブルを聴かせる。バックのパーソネルも名手ぞろいで、回す即興が尋常じゃない。ピラミッド的に低音がしっかりとし、キーボードが上質で、ドラムスの切れ味がシャープ。スティーヴ・ガッドの名技がたっぷりと堪能できる。6曲目、名曲「リターン・トゥ・フォーエヴァー」の再演も嬉しい。

FLAC:96kHz/24bit
Universal Music、e-onkyo music

『渡良瀬橋 (森高千里30周年記念Version)』
森高千里

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 ジャズ/フュージョン界の2大巨人、チック・コリアとスティーヴ・ガッドが組んだスーパー・バンドのデビュー・アルバム。煌めく才能の集合だから、レコーディングではほとんどのトラックが、ファーストテイクでOKだったという。

 1曲目、チックの盟友ジョン・マクラフリンがこのバンドのために提供した「 チックズ・チャムズ」。ノリとキレが抜群にシャープで、息の合ったアンサンブルを聴かせる。バックのパーソネルも名手ぞろいで、回す即興が尋常じゃない。ピラミッド的に低音がしっかりとし、キーボードが上質で、ドラムスの切れ味がシャープ。スティーヴ・ガッドの名技がたっぷりと堪能できる。6曲目、名曲「リターン・トゥ・フォーエヴァー」の再演も嬉しい。

FLAC:48kHz/24bit
ワーナーミュージック・ジャパン、e-onkyo music

『70'sシングルA面コレクション』
西城秀樹

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 配信限定の西城秀樹ハイレゾ。今回の配信用にアナログ・マスターからリマスタリング(96kHz/24bit)したファイルだ。懐かしのYOUNG MAN (Y.M.C.A.)。高揚感溢れる、この曲が、もともとこれほど音質にこだわっていたのかと初めて分かった。単に調子が軽快な曲というだけでなく、音的にオケ、コーラス、ボーカルのバランスが良く、音色も過度にカラフルではならず、イコライジングも過度に中域主体ではない。70年代のアナログ録音の良さがハイレゾで味わえる。「傷だらけのローラ」はアグレッシブで、エモーショナルなボーカルの魅力が迫る。

FLAC:96kHz/24bit
Sony Music Direct(Japan)Inc.、e-onkyo music

『Very Special (PCM 96kHz/24bit)』
大西順子

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 ジャズピアニスト大西順子が、デビュー25周年を記念するアルバムを2枚同時リリース。1枚目がバラード集の『Very Special』。バラードははじめてという。「私の作品はBGMにならないって言われてきましたが、今作は初めてゆっくりとした時間をサポートできるような楽曲集になれるかもしれませんね(笑)」とインタビューで語っている。

 1曲目「 ~Intro~」では冒頭の半音下降が不安定なファンタジー感を醸し出している。ピアノとパーカッションのみだが、残響の多さと相俟って不思議な音感覚だ。ソロピアノで、低域から高域まで縦横にかけのぼるピアニズムの華麗さ。3曲目「Lush Life」では、華麗なアルペジォを聴かせるピアノと、アクセントを明解に表現し、悠々たる進行感で迫るバリトンヴォーカルとの対比が、心地良い。このヴォーカルは、基本的に聴くものに安寧感を与えるが、その背景で、所狭しと縦横に鍵盤の上を舞うピアノの修飾が華麗で、対照的。

FLAC:96kHz/24bit、WAV:96kHz/24bit
SOMETHIN'COOL、e-onkyo music

『Glamorous Life (PCM 96kHz/24bit)』
大西順子トリオ

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 前回のトリオ録音「楽興の時」から年ぶりのレギュラー・トリオ新作。大西のピアノは、一音一音を慈しむ。スローなテンポでは、メローで、ファインなタッチが鍵盤感を鮮明に描きだす。トリオのアンサンプルに支えられたピアノの歌いの美しさ。1曲目のEssentialはそんな抒情が続くのだが突然、ハードで硬質な部分が出現し、またもとのリリカルな表情に戻る二面性が面白い。2曲目Golden Boysの無限に続く、円形なアルペジォ、3曲目A Love Song (a.k.a Kutoubia)の優しい、訴えかける表情がピアノで語られる。4曲目 Arabesqueの砂漠に迷い込んだうな不思議な彷徨。

FLAC:96kHz/24bit、WAV:96kHz/24bit
SOMETHIN'COOL、e-onkyo music