仮説と検証――鈴木敏文氏が強調する言葉だ。絶対数値では測れない人間の心理を読み解くには、過去の経験にとらわれず、仮説と検証の繰り返しで、自らの感覚を磨くしかないと語る。

セブン&アイ・ホールディングス会長・CEO  鈴木敏文
すずき・としふみ/セブン&アイ・ホールディングス会長・CEO 1932年生まれ、長野県出身。56年中央大学経済学部卒業、東京出版販売(現トーハン)入社。63年イトーヨーカ堂入社。73年に日本に初めてコンビニエンスストアを導入。(撮影/住友一俊)

――スーパーや百貨店など、小売り販売が苦戦しています。昨今の消費者心理をどう見ていますか。

 そもそも成熟化した日本の消費環境は、過去のように右肩上がりに成長するような状況にはない。加えて、今の経済状況が消費者心理を大幅に冷え込ませている。しかし、食べるものや着るものに対する需要がない状態でもない。

 新年の初めての朝礼で、日本ではそう簡単にスタグフレーションは起こらないと話した。今の日本はモノが充足していて、消費飽和の状態にある。過去のオイルショック時のような、景気後退と物価上昇が同時に起こるという状況は起こりにくい。

――景況感のせいだけでなく、モノが充足しているから、消費不振だということですか。

 今、衣料がどこもダメなのはあわてて買う必要がないから。

 ところがうっかりすると、景気が悪くなると安くすれば売れると思ってしまう。もちろん、同じものなら安いほうがいい。ましてや景気が悪い状態になると、みんなが安さに傾いていく。

 だが、安ければ売れるかというとそうではない。

 ユニクロさんが伸びているのは安いということもあるけど、もう一つは新しさ。新しい素材や、新しい提案をしているのが当たっている。ユニクロさんは安いから売れているという認識だと、消費者の心を見誤ってしまう。

 消費者は洋服を買うおカネがないわけではない。タンスの中がいっぱいになっているから、あわてて買わないだけ。タンスの中にはない新しいファッションが出てくればサイフを開くチャンスはある。

 今は新しいものを生み出す力があるかどうかが、競争力になる。