しかし、人間の脳みそは素晴らしい。切羽詰まるとなんと思い出した。そして誰ももう使わない壊れかけた電話機の、複雑な操作と闘いながら、トライ10回目ぐらいにつながった。

 ……しかし、出ない。

 実は今、中国では知らない番号からの電話には、出ない人が増えているのである。

 なぜかというと、とにかくセールス電話が凄いからである。ネットでの買い物、送り状に電話番号が記載されたまま捨てた段ボール、会員登録、ホテルの宿泊……、あらゆるところで個人情報が売り飛ばされ、結果、日に何度も「別荘を買わないか」「ローンは必要ですか?」「部屋を貸しますか、借りますか、売りますか……」という電話がかかってくる。

 それに一度でも出ると、その電話番号は「生きている」と見なされ、さらに転売されてしまう。

 今たいていのことは微信(ウイチャット 中国のLINE的なSNS)で済むし、両者が登録済みであれば電話と同じ音声通話もできる。音声メッセージだって送れる。

「中国はまだ字が読めない人がかなりいますから、こういうサービスもついているんですね」と、したり顔のコメンテーターになる気はまったくないが(音声メッセージは、字の入力を面倒がる人が多いのとスピード、歩きながらでも吹き込める、それと検閲避けで需要が多い)、イノベーションで通信習慣も変化しているのである。

 人にもよるが、こういう空港の公衆電話からの怪しい番号にはまず出ない。

 手元の水没スマホを見た。

 「日本に到着して、よく乾かしてから電源を入れれば大丈夫、ほら、パソコンのマザーボードだって水洗いできるじゃない、よく乾かすのよ、それがポイント……」、とさっきまで本当にそう思っていたのに、なぜか、電源を入れてしまった。

 スマホはブルッと振動したかと思うと、一瞬、画面が明るくなり、「やった!」と思ったとたんに明らかにショート。本格的に壊れた。

 その後、飛行機の座席でバッグが熱くなっているのに気がつき、慌ててスマホの電池を抜いた。