去年9月のリーマンショックに端を発した世界同時不況。急速な業績の悪化に陥った日本の製造業は、果たして生き残れるのか――。

 われわれ取材班は、日立製作所、NEC、三菱電機のDRAM部門が統合してできた国内唯一のDRAMメーカーであり、“日の丸半導体”といわれる「エルピーダメモリ」を取材。国境を越えた提携交渉の現場を、半年以上にわたって密着した。

なぜ、台湾との提携なのか?
生き残りをかけた交渉の舞台裏

技術か? コスト競争か? 国家も巻き込んだ、「日本の製造業」生き残りへの戦い
エルピーダメモリ・坂本幸雄社長

 1月5日。成田空港には、エルピーダの社長、坂本幸雄氏の姿があった。台湾メーカー3社との提携交渉に向かうという。なぜ坂本社長は、台湾メーカーとの提携を目指すのか。

 台湾は、いまや世界のパソコンの80%を製造するデジタル製品の生産基地。不況の中でも大ヒット商品となった低価格パソコン、いわゆるネットブックを世に送り出したのも、台湾メーカーだ。ゆえに、台湾のDRAMメーカーも、「安く作る技術」に長けている。

技術か? コスト競争か? 国家も巻き込んだ、「日本の製造業」生き残りへの戦い
2008年度のDRAMの世界シェア

 しかし、DRAMの世界シェアで見れば、台湾勢は、6位以下にすぎない。だが、その台湾と3位の日本(エルピーダ)が組めば、シェアは一気に拡大する。「今後、生き残れるのは2~3社」といわれているDRAM業界において、まさにシェア拡大は生き残りをかけた死活問題なのである。

 台湾メーカーと組む理由について、坂本社長は、

 「日本人がいくら優秀だといっても、それだけではコスト差や人件費の差は吸収できない。しかし、同じDRAMを台湾で作れば、はるかに安く作れる」

と語った。

技術か? コスト競争か? 国家も巻き込んだ、「日本の製造業」生き残りへの戦い
PCや携帯電話の記憶回路をつかさどる「DRAM半導体」

 エルピーダは、携帯電話などに使われる、高性能のプレミアDRAMを得意としてきた。しかし、リーマンショック以降、その需要は激減。一方、市場の伸びが期待される低価格パソコン向けなどの汎用DRAMは価格下落が激しい。そのため、台湾メーカーとの提携は、欠かせなくなっているのだ。

 1月23日。世界シェア5位のドイツ・キマンダが破産申請。「まだまだ潰れる会社が出る」、坂本社長は危機感を募らせていた。市場には、「さらなる淘汰が進む」との観測が広がる中、台湾当局も台湾メーカーの経営基盤を強化するため、国内3社の統合・再編を条件に、公的資金を投入する方針を示していた。