麻倉怜士のハイレゾ

 評論家・麻倉怜士先生による、今月もぜひ聴いておきたい“ハイレゾ音源”集。おすすめの曲には「特薦」「推薦」のマークもつけています。10月ぶんの優秀録音をお届けしています。e-onkyo musicなどハイレゾ配信サイトをチェックして、ぜひ体験してみてください!!

『明日はどこから』
松たか子

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 NHK連続テレビ小説『わろてんか』主題歌「明日はどこから」(松たか子作詞・作曲)、TBS系 火曜ドラマ『カルテット』主題歌「おとなの掟」(椎名林檎作詞・作曲)などの、最近の松たか子のメインテーマ楽曲を中心にした、約8年ぶりの12曲のオリジナルアルバム。

 私は1997年のデビュー曲『明日、春が来たら』から松たか子のファンだ。当初は甘酸っぱい、胸キュン的な音色が魅力だったが、2014年の『レット・イット・ゴー』では、鋭く、剛毅な歌唱に驚嘆した。でも独特の色気も素敵だった。新アルバムも、爽やかな中に意外なほどの艶があり、同時に強靭な表現も可能という、さまざまな音楽的な抽斗を持つ歌手の本領発揮だ。

 1.『明日はどこから』。爽やか系だが、的確なテンポ感で進行する、安定したポップ。2.『おとなの掟』は、不協和音の弦楽に乗った、感情豊かな歌唱。こんなに粘っこく、ねちっこい表現でも松は素晴らしい。3.『君の雨』(Sans Sea作詞・作曲)は、開放的な世界観の快適なポップ。4.『恋のサークルアラウンド』(加藤ひさし作詞・作曲)はオールディーズ的でRB的な8ビート。5.『三時の子守歌』(細野晴臣作詞・作曲)は昔的なコード進行が、懐かしさを醸し出すが、懐かしい雰囲気も明るく歌いとばす。8.『空とぶペンギン』は大貫妙子の世界観なフォーク調も素敵。10.『つなぐもの』(坂元裕二作詞、松たか子作曲)のアカペラには心奪われる。

 とにかく、松の世界は驚く程広く、すべてのスタイルを松的にするのが凄い。語尾のニュアンスの感情感にもぞくぞく。音的には半裏音的な色気もいい。

FLAC:96kHz/24bit
Sony Music Labels

『Beethoven: Symphony No.9』
Wilhelm Furtwangler

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 音楽演奏史というジャンルがある。20世紀の最高の《第九》「第九」は、第二次世界大戦後、1951年7月29日、バイロイト音楽祭管再開初日に演奏された記念すべき実況録音、ヴィルヘルム・フルトヴェングラー/バイロイト音楽祭管弦楽団の音源であるとは、万人が認める真実である。まさに20世紀の偉大なる演奏遺産だ。それがハイレゾになるとは、フルトヴェングラー本人もびっくりだろう。

 冒頭のフルトヴェングラーの足音からして神秘的。万雷の拍手の後の語りも含めて1:13の時間が経過して始まる、有名な5度抜きのAコードの序奏。20世紀の演奏史に残る神的な名演なのだから、慎んで身を清めて拝聴しなければならない。

 ハイレゾ「バイロイト第九」の音的な特徴は、音の滑らかさと、音構造の高解像感覚。これまでアナログで聴いてきたイメージと比較すると音の表面の凸凹が綺麗に均されるようなすべらかさがある。フルトヴェングラーが追求したこまかなテンポの揺れ、感情の起伏、心理的な強調感……など、ハイレゾの音楽的な高解像度でより明確に分かる。類い希なる官能性は第3楽章で見事に発揮される。

 吉田秀和氏は自書「フルトヴェングラー」で官能性について:
「私には、この曲の中で、この楽章が、さっきいった高度に精神的でしかも強い官能性をもった音楽の魅力という点で、フルトヴェングラーの一般的な精緻枠にいちばんうまくはまっていると思われる。と同時に他面、ここほど一枚ヴェールで隔てられた向こう側の出来事のような間接性というか、夢幻性というか、そういう定かでないものとして聞こえてくる音楽は、他にはない」と述べている。

 ハイレゾの表現性は官能性をさらに際立たせているようだ。

 第4楽章はチェロとコントラバスから、ささやくように始まり、小川が集まり、大河になっていくような悠々たる、そして裏に緊張感を秘めた「喜びの歌」のテーマの弦楽合奏では、メインのパートの旋律だけでなく、内声部まで聴き取れる。 O Freunde, nicht diese Tone!と歌い上げるオットー・エーデルマンのバリトンの堂々とした美しさ。中央置くに位置するコーラスの偉容感。フィナーレの熱狂的な盛り上がりでも、過激な進行にも拘わらず上質感を失わないのが、ハイレゾの真骨頂。

FLAC:96kHz/24bit
Warner Classics、e-onkyo music

『ワン・ポイント リアル・ハイレゾ 192Khz ベスト』
ヴァリアス・アーティスト

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 マイスターミュージックは高音質に徹底的こだわるわが国のインディレーベル。本アルバムは同レーベル代表曲のコンピレーションだが、単なる集合ではない。同レーベルが使用するスペシャルなマイクを表に打ち出した、マニアックな企画ものだ。

 世界に数十ペアしかない、特殊な銅を使用したオール・ハンド・メイドの「ゲアール・マイク(周波数帯域:8Hz~200KHz)」だ。特に高域が伸びるハイレゾ録音では「倍音収録」に有利を強調している。マイスターミュージックとe-onkyo musicの共同プロジェクトで、e-onkyo music独占配信だ。

 「運命」は、ひじょうに解像度が高いが、それは直接音的なレゾリューションではなく、会場の響きも含めた直接音+間接音の足し算として、高い。音調がナチュラルで、音楽が自然に空間から湧き上がるという雰囲気が好ましい。「四季」はソノリティが美しい。弦楽の艶が心地良く再現される。「白鳥」のチェロも艶たっぷり。ハープ音の空間感がリアルだ。ベルギー金管アンサンブルのカルメン組曲も響きの豊潤さと、楽器の鳴りっぷりの直接的な雰囲気がいい。バッハのチェロも、濃密な空間の響きが峻厳だ。

FLAC:192kHz/24bit、WAV:192kHz/24bit
マイスターミュージック、e-onkyo music

『あなた』
宇多田ヒカル

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 映画『DESTINY 鎌倉ものがたり』の主題歌。濃密でしかも透明という、宇多田ヒカルの特徴的な音調が、明確に感じられる。ミックスダウンとマスタリングの音調は、いわゆるハイファイ調ではないのだが、でも、極端なドンシャリでもなく、中域のすべらかさと、密度の高さが印象的だ。

 宇多田の歌唱のニュアンスにあらわれる細やかな感情の発露が、歌詞にもあるように「息を飲む」。ブラスとリズム、ベース、ドラムスのバランスも良好だ。感情表現がハイレゾ世界で、より濃密になることが実感できる。

FLAC:96kHz/24bit
Sony Music Labels、e-onkyo music

『ブルー・トレイン』
ジョン・コルトレーン

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 ジョン・コルトレーン(ts)、リー・モーガン(tp)、カーティス・フラー(tb)、ケニー・ドリュー(p)、ポール・チェンバース(b)、フィリー・ジョー・ジョーンズ(ds)のゴールデン・メンバーによる天下の名盤がはじめてハイレゾ化。

 オリジナルマスターテープからマスタリングした。1957年の録音にこれほどのハイレゾ的な要素が詰まっていたのかに驚く。まず解像感がひじょうに高く、音を構成する粒子サイズが細かく、それが、実際の音にねっとりと絡んでいる様子が、クリヤーに描かれている。直接音だけでなく、間接音も美しい。ソロが音像的な大きくフューチャーされるが、同時にバックのピアノ、ベース、ドラムス……などの存在感も十分だ。音場内でそれらが混濁することなく、それぞれの位置関係(左右と奥行き)を正確にキープしている。まさに世紀の名技に酔う。1957年9月15日、ニュージャージーで録音。

DSF:2.8MHz/1bit
Blue Note Records、e-onkyo music

『Annie Laurie (Telefunken M269 / AKG The Tube)』
Lapis Lazuli

推薦ロゴ

 マイクロフォンの音の違いをハイレゾで検証というマニア色がたいへん濃い企画。9月にリリースされたラピスラズリの『ケルティック・レターズ』から、7週間に渡って毎週1曲の2つのマイク違いバージョンを、リリース。1週目:Annie Laurie、2週目:You Raise Me Up、3週目:A Small Flower Song、4週目:Carrickfergus、5週目:Auld Lang Syne、6週目:Greensleeves、7週目:An Irish Lullaby……だ。

 壮観だが、この形態は確かに配信ではとてもマッチする。一度の録音を多彩に活用する配信モデルが、本アイデアから見えてくる。

 本体の『ケルティック・レターズ』はNeumann U-67, Telefunken M-269, AKG The Tubeの3本の異なるヴィンテージ真空管マイクで同時にレコーディングされているが、アルバム自体は全編に渡ってNeumannのU-67の音源が採用されている。

 今回のマニアック企画は1962年に開発されたTelefunken M-269と1980年代のAKG The Tubeの比較だ。(4週目のCarrickfergusのみTelefunken M-269、Neumann M-147の2種)。

 聴き比べてみた。Telefunkenは優しく、伸びやかで、響きも美しい。高域が繊細でグラテーションが細やかだ。AKG The Tubeは中域のリッチさと滑らかさと、バランスの佳さが聴ける。Telefunkenのような高域の華麗さはないが、中域の厚みと整然さが魅力。清潔な色気がある。同じ色気でもTelefunkenは艶艶としている。

FLAC:192kHz/24bit、WAV:192kHz/24bit、DSF:5.6MHz/1bit
キングレコード、e-onkyo music

『Perfect Angel[Deluxe Edition]』
ミニー・リパートン

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 1975年の大ヒット、Lovin' Youがもともとこれほど高音質だったのかにびっくり。42年前のアナログ録音だが、これほどクリヤーで、鮮明で、輪郭が確実で、力感と色彩感に溢れているとは。オリジナルの優秀さが、ハイレゾでさらに引き出されたというところ。

 アナログのポップをハイレゾにすると、力感が弱くなる場合も多いが、本作はまつたくハードのまま。オルタナバンドバージョンは初出だ。ベースが蠢き、ドラムスがシンコペーションする版は音の新鮮さでは、シングルに譲るが、ピラミッド的なF特とスピード感は、たいへん貴重。

FLAC:96kHz/24bit
Capitol Records、e-onkyo music

『アマリッリ 麗し』
福井敬、アントネッロ

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 日本を代表するテノール福井敬の初期バロック集だ。最新録音らしく、実に鮮烈で鮮明、新鮮な音調。会場の豊かなソノリティも入るが、それが音源の明瞭度を損ねること無く、バロックに必須のチェンバロも響きを伴いながらも明瞭だ。

 福井のバリトンは、存在感が豊かで、艶艶している。音の肉付きがリッチで、表現力も豊潤だ。2017年1月2日/3日、栃木県 岩舟文化会館で録音。

FLAC:96kHz/24bit、WAV:96kHz/24bit
OMF、e-onkyo music

『Live In Prague』
ハンス・ジマー

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 The Lion Kingなど多数の映画音楽をものす現代屈指の作曲家、ハンス・ジマーのゴージャスなライブだ。2016年5月7日、ヨーロッパツアーの一環、プラハでのライブ収録。オーケストラとコーラス合計72名という豪華さだ。

 拍手、歓声もそのまま入るが、このクリアさは何だというほど、混濁が少なく、解像度が高い。まるで、スタジオで最良の音響的コンディションで録音したような優秀さ。ストリングス、オルガン、ベース、ドラムス……の各楽器が明瞭なこと。音調的には各曲の冒頭の低音の雄大さの表出が印象に残る。ハンス・ジマーの渋い声のナレーションも明瞭だ。

FLAC:48kHz/24bit
Universal Music、e-onkyo music

『THE STANDARDS II』
小林 桂

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 ベテラン男性ジャズ・ボーカリストの小林桂(こばやしけい、1979年5月9日 - )の最新アルバム。素晴らしく音質が良い。透明感が高く、ヴォーカルを中心にコンボの各楽器の音像が確実で、ベースのスケール感と歯切れの良さ、ソプラノサックスの音的な存在感もいい。

 男声ヴォーカルは、中性的で不思議な魅力がある。輪郭を立てずに、音像の肉付きが良い。

FLAC:96kHz/24bit、WAV:96kHz/24bit
twinKle note、e-onkyo music