世界に類のない高齢化が進行する我が国において、年金制度への国民の不信感・不安感は計り知れない。年金制度の在り方の論議の中で、このところ急速に浮上しているのが「全額税方式」だ。今回から2回にわたって、この「全額税方式」に潜む問題点について駒村康平・慶應義塾大学経済学部教授に聞く。

駒村康平・慶應義塾大学経済学部教授
駒村康平・慶應義塾大学経済学部教授

 年金制度への不信感は深く、広く蔓延している。2004年年金改正も、国民の不安を取り除くことは全くできなかった。では、日本の年金制度はどうあるべきなのか? 

 このところ浮上してきたのが、基礎年金(注1参照)を全額税負担にしようという「全額税方式」である。日本経済新聞の年金制度改革研究会が「基礎年金を社会保険方式から税方式に移行、財源すべてを消費税で賄うこととすべき」(注2参照)とこれを提唱し、麻生太郎・自由民主党前幹事長も「消費税を10%にして基礎年金を全額税負担にしよう」(中央公論3月号、注3参照)と訴える。

 この全額税方式は本当に、不信感を取り払う切り札となりうるのか? 内外の社会保障政策に詳しく、『年金はどうなる』(岩波書店)の著書もある駒村康平・慶應義塾大学経済学部教授に聞いた。氏の答えは「明らかにノー」である。

――このところ、「基礎年金を全額税方式とすべし」との提言が相次いでいます。

駒村:税方式が国民に魅力的に映るのとすれば、たぶん2つポイントがある。1つは現在の年金システムが「空洞化し、すでに破綻しているのではないか」という疑念が浸透している点。もう1つは「これからの高齢化社会の負担増には、消費税で対応するのが望ましい」という見方がある程度、浸透している点にあると思う。

 まず、年金の空洞化について。麻生氏は中央公論の論文で「年金不信で国民年金保険料の納付率は6割程度にとどまっている。国民皆年金という謳い文句は、もはや死語だ」としている。

 確かに国民年金(第1号被保険者)の納付率は67.1%(2007年度)にとどまり、免除されている人の分(17.7%)を差し引くと、5割を切る。