1990年代末期からのITバブルと“ウェブ2.0”と呼ばれる技術革新により、急激に普及したインターネット。いまや誰もがビジネスや生活の場で当たり前のように利用し、世の中は格段に便利になった。しかし、ユーザーの立場を離れれば、起きているのは良いことばかりではない。新聞など紙媒体のジャーナリズム、音楽をはじめとした文化の凄まじい衰退が起きているからだ。

そうした危機的状況が続くなか、2011年に急激に普及したスマートフォン(スマホ)は、コンテンツ業界にさらなる衝撃を与えた。では、よりスマホが普及と見られる2012年はどんな年になるのか。米国ネット企業の一人勝ちとそれによる日本の国益搾取の現状に警鐘を鳴らし続ける岸博幸氏に、コンテンツ業界を危機に陥らせたネットの功罪と2012年の業界の行方について話を聞いた。(聞き手/ダイヤモンド・オンライン 林恭子)

いまや米国ネット企業一人勝ち!
スマホ普及でコンテンツ業界はさらに苦境へ

――ネットの普及に伴い、この数年で紙媒体や音楽をはじめとしたコンテンツ業界は急激なスピードで厳しい状況に追い込まれています。なぜこれほどまでの危機に瀕するようになったのか、改めてその背景を教えてください。

【テーマ13】<br />日本の文化やジャーナリズムはこのまま衰退するか<br />ネット、スマホに搾取されるテレビ・音楽業界の行く末<br />――岸 博幸 慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授きし・ひろゆき/1986年通商産業省(現経済産業省)入省。1992年コロンビア大学ビジネススクールでMBAを取得後、通産省に復職。内閣官房IT担当室などを経て竹中平蔵大臣の秘書官に就任。不良債権処理、郵政民営化、通信・放送改革など構造改革の立案・実行に関わる。2004年から慶応大学助教授を兼任。2006年、経産省退職。2007年から現職。現在はエイベックス非常勤取締役を兼任。

 ネットが普及する以前の世界では、テレビ局や新聞社、レコード会社などのコンテンツ企業がコンテンツ制作から流通までのすべてを担うことができました。しかし、ネットが普及した今、ネット上で情報やコンテンツの流通を結果的に担っているのは、残念ながらネット企業です。つまり、ネット世界では、コンテンツ業界が垂直統合型で担っていた流通網は崩壊し、流通は他人まかせ、つまりプラットフォームサービスを提供するグーグルなどの米国ネット企業が事実上、情報の流通を担うようになってしまいました。

 ユーザーは強大なプラットフォームに集まりますから、もはやコンテンツ側が立派なサイトをつくってアクセスを集めても、広告費は稼げない。そんな悪循環にはまっているのが現状です。

――ネットの普及によってプラットフォーム・レイヤーの“流通独占”だけでなく、ユーザーにとって情報や音楽などは“無料”が当たり前になってしまいました。そんな苦境に直面しているコンテンツ業界にとって昨年のスマホ拡大はさらなる衝撃を与えたのではないでしょうか。