早期発見・早期治療が定着し、全体の生存率が年々改善されている胃がん。しかし、この「治りやすい」胃がんも、進行・再発がんのステージに入ると一転して「治りにくい」がんに変貌する。特にがんの塊が胃壁を突き破り、お腹の中にがん細胞を播(ま)き散らす「腹膜播種」のタイプは、厄介のひと言につきる。胃をすべて摘出したとしても、腹腔内に散らばったがん細胞に対処する術はなく、腹膜播種と診断された後は余命数ヵ月と告げられることも少なくない。

 この暗黒にひと筋の光が差したのは1999年、日本発の飲む抗がん剤「TSー1(Sー1)」が登場し一定の効果が報告されてからだ。その後、他剤との併用で進行胃がんの患者の生存期間を延長することが証明され、現在はTSー1単独あるいは抗がん剤の「シスプラチン」との併用が標準治療とされている。ただ、「腹膜播種の場合、今の“標準”治療では半年~1年の延命効果が期待できるにすぎない」(腫瘍内科医)ため、次の一手を模索する日々が続いた。

 こうしたなか、東京大学腫瘍外科のグループは、お腹に設置したポートから腹腔内に直接、抗がん剤を注入する方法を考案。胃がんの治療で使われる抗がん剤の「パクリタキセル」の腹腔内投与に、同じパクリタキセルの点滴静注とTSー1の内服を加えた方法で臨床試験を行った。その結果、1年生存率78%、2年生存率は47%という良好な成績が示された。腹腔内に散らばったがん細胞が縮小、消失した症例も報告されている。