『週刊ダイヤモンド』2月17日号の第1特集は「相続を争族にしない」です。「わが家は相続するほどの財産はないし、子どもたちも仲がよいので争族なんてあり得ない!」。そのように考えている人が大半かもしれませんが、現実はそうではありません。相続の専門家たちは、「そう考えている家庭ほど、争族になるのです……」と言います。では、どんなときに争族に発展するのでしょうか。豊富な事例を基に、争族の実態に迫りました。

 豪華な調度品が並ぶ応接室。この家のあるじである資産家が亡くなり、弁護士が遺言書を読み上げるのを、集まった相続人たちが固唾をのんで見守っている……。

 遺産をめぐって骨肉の争いといえば、テレビドラマなどに登場する“華麗なる一族”のお約束事だが、庶民のわが家には無縁。そう思っている人も多いだろう。

「ましてや、相続税の非課税枠の範囲内の遺産で、もめるはずなどない」――。

 しかし、そうは問屋が卸さないのが、相続の実情だ。2016年度の統計を見てみよう。

 相続人同士の話し合いでは決着せず、家庭裁判所に持ち込まれた遺産分割事件(認容・調停成立)の、遺産総額別の内訳を見ると、ほぼ相続税がかからない5000万円以下の事件が、実に4分の3を占めている。さらには、全体の3割が1000万円以下となっており、もともとの母数が多いことも影響しているだろうが、正直「遺産が少ないほどもめているのでは」という印象すら受ける。

 “争族”は、決して富裕層だけの“特権”ではない。庶民には庶民なりの戦いがあるのだ。

遺産が少なかろうと仲が良かろうと
もめるときはもめる

「いやいや、遺産でもめるのは、もともときょうだい仲が悪かったからでしょ? 家族円満が自慢のわが家にはやっぱり関係ない」と思うかもしれない。

 しかし、相続の現場を数多く見てきた専門家たちは「親の生前は仲が良かったにもかかわらず、いざ遺産分割の段になってきょうだいが大バトルを繰り広げるケースは珍しくない」と口をそろえる。

 親が生きているうちには言えなかった不満が、親の死と同時に一気に噴出することも少なくない。

「お前は日頃からおやじに小遣いをもらっていた」「兄さんだって、自分だけ大学に行かせてもらったくせに」など、長年お互いに抱いてきた不公平感を親の遺産で取り戻そうとし、遺産分割協議でもめにもめてしまうというわけだ。

「金のことでもめるような育て方はしていない」「きょうだい仲良くと言ってきたつもり」と、親なら誰もが考えている。しかし、遺産が少なかろうと、いくら家族の仲が良かろうと、もめるときはもめる。それが相続の現実だ。

 あなたが死んだ後、天国から子どもたちがもめているのを見てからではもう遅い。自分の家族を争族から守るには、一体どうしたらよいのだろうか。

遺言書だけでは火種が残る可能性も
手紙も付ければ完璧

 争族を未然に防ぐためには、やはり遺言書を残しておくのが最善の策となる。故人の遺志が明確であれば、その内容に多少の不満はあったとしても、納得感が得られやすいし、相続人それぞれが勝手な主張をするより、もめるリスクはずっと少なくなる。

 遺言書には、相続人それぞれにどんな種類の財産を残したいのかを具体的に書いておくこと。

 専門家や公的機関の立ち会いがない環境で作成した場合、遺言書を法的に有効にするためには、家庭裁判所に一度提出する必要があるので、それまでは勝手に開封してはいけない旨も封筒に明記しておくとよいだろう。

 しかし、遺言書だけでは、諍いの芽を全て摘み取れるとは限らない。遺産分割協議の場は遺言書で乗り切れたとしても、その内容に不満があれば、その後も相続人の間にしこりが残ってしまう可能性があるからだ。

 そこで従来の遺言書に加え、「付言事項」として、相続人それぞれに対する思いを書いた手紙も添えておくことを勧めたい。遺産と一口に言っても、その形態はさまざまで、単純に均等分割できるものではなく、どうしても、特定の誰かに多く配分することになるケースが多いからだ。「家業を継いでもらった」「介護してもらった」などの理由で、この子には多めに残したいということもあるだろう。

借金であっても立派な財産
安易な相続放棄は迷惑

 その場合、遺言書には、遺産の分割が均等でない事実のみが無機的に記載されるため、どうしても取り分の少ない相続人が不満をためやすくなってしまう。

 そこで、相続人それぞれに対する思いをしたためた手紙もぜひ残しておこう。心のこもった故人の手紙を読めば、納得せざるを得なくなるのが人情というものだ。

「遺言書だけでなく、手紙も書くなんて面倒くさい。いっそのこと生きているうちに財産を使い切って遺産をゼロにすればよい」と思った人もいるかもしれない。しかし、人間いつ死ぬか誰にも分からない。生きている限りお金も住む所も、家財道具も必要だ。

「じゃあ借金すれば誰も継ぎたがらないし、放棄してもらえば万事解決!」ともいかない。借金も立派な遺産。子どもが放棄しても、次の相続人に権利が移り、その人が放棄すれば、またその次……という法律の仕組みになっており、通常の相続よりさらに多くの人に迷惑を掛けることになる。意図的にやるのは絶対NGだ。

 遺産というのは、故人の生き方そのものといっても過言ではない。「自分が死んだ後のことなど知ったことではない」と、無責任を貫いていては、あの世に行っても妻や子どもたちから恨まれかねない。家族円満のために生前の対策がいかに大切か、これを機にぜひ知っておいてもらいたい。

あなたの家庭は大丈夫?
相続が“争族”になるとき

『週刊ダイヤモンド』2月17日号の第1特集は「相続を争族にしない」です。

 これまで仲良くしてきた家族が相続を機に疎遠になったり、二度と顔を合わせなくなったりするケースが後を絶ちません。これぞ、まさに“争族”です。

 相続が争族になる最大の理由は、偏った遺産分割をしてしまうこと。高齢の親世代は家督相続の意識が強いため、長男に多く遺産を相続しがちですが、片や子どもたちは公平に分けてもらえるものだと思っています。

 自宅が財産の大半のため分けにくい、きょうだいの思いがそれぞれ違っている、学費や家の頭金を出してあげた子どもがいる、再婚している――。争族の火種は至るところに潜んでいます。

 さらに、亡くなった親からすれば、相続は自分が死んだ後のこと。あまり積極的に考えたくなるものではありません。

 そうした親子間や、きょうだい間のギャップが、争族を生み出しています。

 本特集は、数多ある争族事例を基に、そして、どのように解決すればいいのか、といった二つの視点で構成しました。相続は他人事ではありません。ぜひ、自分事として読んでいただければ幸いです。