金与正氏派遣を、最初から考えていたかは定かではない。しかし文政権が、「核ミサイルは、韓国ではなく米国に向けられている」という金正恩委員長の発言に反論しないばかりか、軍事パレードの中止も求めなかったことから、北朝鮮側は「韓国は抱き込める」と判断し、金与正氏の訪韓や訪朝への招待を最終的に決めたのではないだろうか。

 韓国における金与正氏の立ち振る舞いは、堂々としていて冗談も言うことができ、「この人となら対話できる」とのイメージを与えたが、そうした北朝鮮の“微笑外交”で南北統一を前面に出した姿は、北朝鮮の残忍さを忘れさせる雰囲気を作り出そうとしたものであった。

 しかし、北朝鮮が目指すのは「赤化統一」であり、仮に連邦制の統一であっても北朝鮮ペースでの統一である。そのことを決して忘れてはならない。

寄り添い笑顔絶やさぬ文大統領
想定を上回る親北姿勢

 むしろ想定外だったのは、文大統領の方だ。常に金与正氏と、同じく訪韓した最高人民会議常任委員長の金永南氏に寄り添って笑顔を絶やさないなど、到底、日米韓の連携による「最大限の圧力」を目指していた韓国の大統領とは思えない姿だった。

 筆者が、拙著「韓国人に生まれなくてよかった」や、ダイヤモンド・オンラインの連載で述べてきたように、文大統領が北朝鮮に対して無防備だということは理解していたものの、金与正氏などに対し、まるで恋人や親友と接するかのように振る舞ったことに、強い違和感を覚えたのは筆者だけではないだろう。

 だが、北朝鮮側の一連の行動は、常に計算されたものだった。

 まず、オリンピックへの参加の意思を伝え、韓国の懐柔にかかる。その上で、モランボン管弦楽団の派遣を通じて、北朝鮮の魅力と柔らかいイメージを振りまいた。