オリンピック直前のワールドカップで、入賞も見える順位でタイム差もトップと1秒を切るとなれば、選手の心が動くことは十分に考えられる。仮に選手が拒否してもチームや連盟は総合的な判断で、少しでも可能性のある選択をするだろう。表彰台争いを100ミリ秒、10ミリ秒の世界で行なっているボブスレーをしているものからすれば、真っ当な判断だ。

 とはいうものの、ジャマイカ連盟も不採用の理由や手順をはっきりさせてもよかっただろう。

 さらにBBCNewsなどによると、ジャマイカチームからドイツ人コーチ(サンドラ・キリアシス氏。2006年のオリンピックチャンピオン)が辞任、というトラブルを起こしているという。じつは下町Pから切り替えたラトビアBTCのソリはコーチの所有物であり、採用するなら買い取ってほしいとしたところ、連盟からは支払いを拒否されたという。

 キリアシスコーチの辞任に伴い、BTCのソリが使えなくなったジャマイカチームだが、ジャマイカに本社があるビールメーカー「レッドストライプ社」が支援を表明し、別の新しいソリを入手したという。

結果がすべての勝負の世界、ソリの性能にも勝敗がある

 さまざまな背景や、そこから来る感情論を抜きにしていえば、結果的に下町PはBTCに勝てなかったというだけの話だ。勝負の世界の隠れたストーリーは、勝者に華を添える。が、それもこれも結果が出てからの話である。実際、BTCは下町Pが認めるように技術力は決して低くない。元選手が中心となる6名ほどの中小企業だが、各国のチームが採用するほど信頼を得ている。

 技術的な面でいえば、公平に見て大田区の工場もランナーやボディの加工技術に世界有数のものを持っていると言っていいだろう。しかし、同じスペックを持つ部品を組み立てても、まったく同じ製品ができるとは限らない。それがワンオフ生産の競技用である場合はなおさらだ。

 だからこそ専属のコーチやエンジニアがついて選手をサポートする。自動車レースでも、個別の性能や技術に勝る日本チームが、歴史あるレースでなかなか表彰台に立てない。1位がとれないのはなぜか。その理由は、ものづくりとエンジニアリングを現場で実践している町工場ほどわかっているはずだ。

 土壇場だったかもしれない。契約があったかもしれない。そうしたなかにあって、下町Pはソリ製作の勝負に負けたという結果を正面から受け止め、次に繋げればいいだけなのだ。

(ITジャーナリスト・ライター 中尾真二)

参考:
JAPANブランド育成支援事業
http://www.chusho.meti.go.jp/shogyo/chiiki/japan_brand/index.htm
ジャマイカ連盟との交渉について
http://bobsleigh.jp/180207-2
BBC
http://www.bbc.com/sport/winter-olympics/43058774