原牛からウシへ

 家畜牛の先祖は「原牛」という。ふつうは「オーロックス」と呼ばれる種で、更新世末期(約10万年前)以降に隆盛を極め、ユーラシアに広く分布していた(北米にはいない)。人類によって狩猟されたため、各地で絶滅していった。例えば、イギリスでは青銅器時代までに絶滅していた。家畜牛つまりウシよりずっと大きく(体重で800~1000kg。ウシはふつう300~800kg)、雄は長大な角を持つ。この扱いにくい動物を、何故、またどのようにして、家畜化していったのだろうか。

 もともと肉のために狩っていたのだから、食料確保は意図されていただろうが、飼養のためのコストを考えると、推進の原動力とは考えにくい。日常的に消費されるものでない故に、祭事に捧げ物にされたであろう。力強い獣なので、畏敬の念も抱かれただろう。特に、人を殺すこともある角はそのシンボルだった。先史時代の人類が牛を神聖視していたことは遺跡等で明らかである。犠牲と言う漢字(牛偏がつく)そのものでわかるように、各地で牛は、特にその角が神に捧げられてきた。古代ローマの書にも牛が犠牲に供されることが記されている。犠牲としての捧げ物あるいは物々交換用として、牛は飼育開始されたのであろう。

 牛は牛飲馬食の語が示すように、水を多量に飲む。人間の居住地が水飲み場にあれば、牛もそこに居つくようになろう。また、塩を好むから、それを与えることによって人類の定住地に慣れさせ飼養していったのであろう。飼育下で、繁殖を管理し、人類は牛を小型化させていき、扱いやすいウシにした。

コーカソイドとの共生

インド亜大陸のウシ「ゼブー」
インド亜大陸のウシ「ゼブー」

 人が森林を伐採していくと、狩猟には頼れなくなる。獲物が住めなくなるからだ。反面、肉食獣もいなくなって家畜が襲われることもなくなる。かくして家畜と麦等の作物をセットにした農業体系がヨーロッパを中心に拡がっていく。