5、6年前、中国に進出した顧問先企業の業務で、中国に進出した日系企業と1年ほど付き合った。それまでの日系企業との付き合い方といえば、私は取材者で、日系企業の方が被取材者という構図が多かった。しかし、下請け会社の幹部として仕事の発注先である日系企業を見ると、あ然とするような光景が見えてきた。

崩れた日本人社員への神話

 日本本社の資材調達担当の幹部が、下請けの会社の中国人幹部社員と結託して密かにトンネル会社を作り、私腹を肥やす光景があれば、中国ビジネスの現場にいる日本人幹部が赤裸々にリベートを求めるケースもあった。年末になると、資材調達担当幹部が口実を作って上海に出張する。本当の目的は、そのトンネル会社の年末決算に立ち会い、黒い配当金を懐に入れることだ。もちろん、会社には一切内緒である。

 それまで、日本人社員はモラルが高い、愛社精神が強い、と私は信じていた。だが、中国のビジネス現場で以上のような光景をたくさん見ているうちに、このような神話はもう信じなくなった。こうした問題を起こした会社がどこも日本を代表するような会社であることを、私は特に問題にしていた。

 後に、日本のメディアに次のように書いた。

「人間は錆びないステンレスではない。環境によっては、身から錆(さび)が出るのにそれほど時間はかからない。重要なのが教育、監督、そして奨励、懲罰だ。中国のビジネス現場での教育というと、往々にして中国人社員に対する教育を指すが、実はそれに負けないほど重要なのが日本人幹部と日本人社員への教育だ。そして制度的な保障システム作りだ。どんなに能力があっても、3年も経てば、日本人の資材担当者を資材担当から離れるよう人事異動させる」。